複雑・ファジー小説

Re: ANIMA-勇者伝-【12/21更新】 ( No.427 )
日時: 2014/12/23 16:20
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: uz6Wg9El)



 真っ暗な闇が眼前に現れたと同時に手に暖かなぬくもりを覚えた。生きている人間の温かさだ。

「う……うぅ……」

左側に居たぬくもりが声を出した。それはユーノだ。ユーノはうっすら目を開けて自身の上に乗っている人を見る。

「グライト……!」

ユーノは慌てて起き上がり、グライトを揺すった。グライトはそれに反応し、目を開きユーノの肩を掴む。

「……大丈夫だった!!?」
「うん、グライトは? 上はどうなっているの?」

ユーノの質問にグライトは暗い顔で首を振った。

「諦めちゃだめだよ! 魔法が暴走してもグライトなら制御できる。ボクは信じるよ!」
「でも秘宝の力もあわさって巨大になり過ぎている! その上全知全能の神が降り立って大半が吸い込まれていったんだ。もう俺たちには手が出せないよ……」

もう駄目だ、そう首を振るグライト。
ユーノはそんなグライトの頬を思い切り叩いた。パシンと言う音が何もない空間に広がる。

「しっかりして!! あのね、グライトはまだまだ未来を生きてもらう! この世界もまだ終わらせない! だって……だってボクとまだ付き合ってもないんだもん!!」

真っ赤になって怒るユーノに、グライトは目を見開いた。

「まだ始まってない。始める前に終わるなんてそんなの……ボクが許さないから!!」

フンと鼻息を荒くしてユーノは立ちあがった。

「ボクはリュウを探しに行くから、グライトは上の魔法陣の止めてきてね。大丈夫、だってグライトは秘宝を五つも持っているんだよ?」

ね、そう言って穴の中を元気よく走り出したユーノ。グライトは頷き、力強く立ちあがった。
そうだ、負けていられない。自分しかいないんだとグライトは自分を鼓舞した。
だが気合を入れても崖は越えられない。どうやって登ろうかと思っていた時、足元にたまたまロープが落ちていた。グライトはこれを使って登ろうと思った。
背中の弓を取り出し、矢の先にロープをきつく縛るとおぼつかない型で弓を放った。何度か繰り返すといい感じに岩と岩の間に引っ掛かった矢、グライトはその先につながったロープを引っ張り、なんとか上に登った。

「わぁ……!」

崖の上は壮観だった。なにせ周りには何もない。美しかった水晶の洞窟も、空を闇で覆っていた黒雲も何もかもがなかった。
ただ一つあるものは中心でそれらを吸い込み続けている魔法陣だけ。魔法陣は黄金色に輝き、歪に歪みを繰り返しながら吸い込み続ける。
あの魔法陣を止めなければ、グライトはどうやってあそこへ近づくか模索する。ふと視界の端にまだ吸い込まれていない人物が立っていた。あのアンブラーにとどめを刺した影ノ皇だ。
彼はじっと魔法陣を見ながらその筋肉がついた二本の足でどっしりと地面に立っていた。

「……少年。この世界は終わるのか?」

影ノ皇はそう悲しそうに言ってグライトを見てきた。グライトはそんなことないと首を横に振る。すると影ノ皇はフンと鼻で笑い何かを言った。小さな声でグライトには聞こえなかったが、影ノ皇は満足そうに口をニヤリと釣り上げる。

「少年、内に秘めたる影を解き放て。さすれば我の剣は答えよう。我はもうすぐ砂となり消えるだろう。あいつには悪いが、奴の居る場所まで持ちそうにない。少年、速くしろ。影を解き放つのだ」

グライトはその言葉にカゲの事を思い出した。カゲは相変わらずグライトの内側に潜んでいて、その時をずっとまっている。
そう言えば膨大な力がたまっているとぼやいていた、自分にその力を操れるだろうか?

迷っている暇は無かった。やらねば進まない。グライトは影ノ皇に黒い剣、影ノ皇が使っていた伸縮自在の剣を受け取った。何だか自分の持っている蒼剣と感じが似ていて、自分の蒼剣ももう片方の手にもつ。

「少年、あの魔法陣をそれで斬り裂けばいい。全てが元に戻るかは分からないが、少なくとも形を取り戻すだろう。やれ、少年」
「うん。でも一つお願いがあるんだ」
「なんだ?」
「お願い、テオさんの場所まで実態を保ってね。テオさんは今希望を失ってダメになっている。そんな彼が望んだ事だから、彼のために叶えてほしい。彼は貴方と戦いたがっている。あの頃のように」

グライトの言葉に影ノ皇はフッと笑った。

「ならば少年。お前が我を奴の元まで届けろ。もう我には力は残っていない。お前ならできるだろう? テオの願いを叶えたいのだろう?」

影ノ皇の言葉にグライトは「わかった」と頷いた。あの時のように、テオが魔力を集め、空間に亀裂を入れた時のようにすれば大丈夫だ。きっとあの魔法陣を斬れば魔力は発散される。その時が狙い目だ。
グライトはそう心に言い聞かせ、両手に力を込めた。碧い剣と黒い剣は体をうねらせ、大きく、大きくなり、そのうち融合を始めた。膨大な魔力が今グライトの手にある。
剣の魔力に当てられて秘宝も光り出す。秘宝はそのまま粒子となり、居場所を求めて剣に集まってきた。キラキラと輝く剣は美しい麟紛をまきちらしながらその魔力を誇った。
グライトはその剣を強く握りしめ、カゲに呼びかける。

今、君の力が発散できる。力を貸してくれ。

グライトの呼びかけに応え、カゲはその姿を剣に映した。任せとけ、そう言わんばかりにニコッと笑う自分と瓜二つの影。

グライトは魔法陣を見上げ、狙いを定めた。

——済世の時だ。
誰かの声がそう言ったと同時にグライトは舞い上がった。まるで蝶のように優雅に魔法陣まで飛びあがる。だがその手に持った剣に容赦はない。力強く振りさげられたそれは見事歪な魔法陣を空間ごと斬り裂いた。

「いまだ!!」

グライトはそう言うと同時に影ノ皇まで一気に急降下した。

「行くよ」

グライトがそう言う。影ノ皇は驚き、目を小さく見開いた。影ノ皇はそのまま空間の裂け目へと吸い込まれる。グライトは先導を統べく、一緒にその中に飛び込んだ。





……——何もない空間に残ったのは静寂。そして最盛の狼煙だった。