複雑・ファジー小説
- Re: ANIMA-勇者伝-【12/21更新】 ( No.428 )
- 日時: 2014/12/23 16:38
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: uz6Wg9El)
エピローグ とある国に伝わる歴史書
グライトは目を覚ました。見慣れた暗闇。傍らには影ノ皇が立っている。
目の前に扉が現れた。黒猫がそこへ入っていく。黒猫に連れられた少年も。その景色をグライトと影ノ皇は後ろから見ていた。
「あそこか、テオがいると言う空間は」
影ノ皇はそう言って一歩踏み出す。すると扉は目の前に現れた。その奥にテオがいた。テオは相変わらず神木のような太い木の枝で昼寝をしている。
その呑気な姿をみて影ノ皇はため息を吐きだした。
「情けない」
影ノ皇はそう言って中へ入った。グライトも後に続く。
扉は二人を呑み込み閉じた。次に広がったのは木々がひしめく美しい空間だった。
二人の気配を感じてテオは起き上がった。眠そうな表情と、くたびれた服は相変わらず、そのテオは不機嫌に目を細める。
「だれだ?」
次の瞬間には目を見開いていた。大粒の涙が一筋テオの頬を伝った。
「……やっと来たか。あっちはどうなった?」
「再生したよ」
グライトは一歩踏み出した。隣に居る影ノ皇に視線を送る。
「テオさん、彼が影ノ皇だよ」
「……あぁ、知っている。覚えている」
穏やかに微笑んだテオは口を動かし「ありがとう」と言った。グライトはほほ笑んで頷いた。
「送ってやるよ。あれからあちらへつなぐ道を創ってみたんだ。こっちとあっちじゃ時間が違うから、あっちでは一瞬だがこちらでは何年もたった。逆にこっちでは一瞬だがあちらでは何年もたっている事がある。……ほら、ここだよ」
テオは神木の幹を叩いた。そうすると黒い穴が現れる。奥の見えない穴だった。
「お前は俺の願いをかなえてくれた。だからお前にお礼をしたい。お前はここを通り過ぎた時、地位と名誉、そして財産を与えられるだろう」
テオはそう言ってグライトの背中を押した。黒い穴はグライトの驚きの顔を呑み込んで行く。最後に見た景色は、テオは影ノ皇に勝負を挑んでいた。
◆
穴を通りぬけた。そこでグライトは目を覚ます。キョロキョロとあたりを見渡すと、どう見てもあの何もない洞窟では無く、豪華な壁が広がっていた。
グライトは自分が座っている場所を見る。紅い、ふかふかの椅子だった。肘掛は金色でいずれにせよ豪華なのには変わりない。
「グライト!!」
驚きで言葉を失っていると誰かが腕に飛び込んできた。そのよく見慣れた金髪の髪は見慣れた頃より少し伸びていて、グライトが手を伸ばすと絹のようにさらさらと手から滑り落ちた。
「……どうしたの? 髪なんて触って……何かついてた?」
そう言った彼女は美しいドレスに身を包んでいて、少し大人びた顔だったが、無垢な色を残していた。
「ユーノ……」
グライトが名前を呼ぶとユーノはほほ笑んで首を傾げる。
「どうしたの?」
顔を覗きこむユーノは幸せそうだった。「いや……」グライトはそう言って言葉を濁す。
「それよりさ、グライト吉報だよ! ソラとセレリーが新しい国を創ったんだ!! グライトの協力があったおかげだって二人とも笑ってたよ。奴隷制度も廃止になって嬉しい事だらけだから、今日はその国でパーティーするんだって! 行くでしょ?
あと、お客さんが来てるよ。珍しい事にそのお客さんって言うのがさ、クウゴとミキで……なんか二人とも汚くなってたからお風呂に押し込んできた。もうすぐ来るんじゃないかなァ?
あとね、ライムが明日こっちに見えるんだって。手土産に向こうの土地でとれたワインを持ってきてくれるらしいよ。ほら、前に言ってたエアリィちゃんとルナちゃんも手伝ったんだって。嬉しいね! あとは〜……ッてグライト、聞いてる?」
ユーノは唖然とするグライトの顔を見て、訝しげに眉をハの字にする。
「……どうしたの? 今日のグライトへんだよ……ってえぇ!? グライト、なんで泣いてるの?」
驚いて慌てだすユーノ。グライトはその言葉に自分の頬を触ってみた。冷たい水がしょっぱくて、さらにあふれてくる。
その様子を見て慌てるユーノに向かって「なんでだろうね」と声をかけるグライト。テオが言っていた言葉を思い出し、合点がいった。
「もっと聞かせて、他の皆の事。これからの事とか」
「……う、うん。わかった。だから、泣かないでね?」
ユーノは心配しながらも話しだす。
それはもうすぐこの国で盛大にパーティーが開かれる事や、周辺の大陸の事、グライトの故郷の事、リュウがあれから謀反を起こし、父を倒しただとか、そしてあの洞窟であった事も——。
グライトはその話を頷きながら聞いていた。いつの間にか自分は様々な事に関わっていて、いつの間にか大きな問題は解決していた。自分は関わったらしいが、よくわからない。
自分がこちらに居なかった時間を考えるとざっと10年は経っていた。その間、自分は活動していたらしいがどういうことだろうか?
疑問に思っていると内側から声が聞こえた。影の声だ。影は言った。
私が手伝ってやった。
その言葉にギョッと驚く。まさか、人を殺したり、暴走したり……嫌な可能性が廻るが、全て影に否定された。影は勤めてグライトという人格を守ってくれたそうだ。
感謝を覚えお礼を告げるが影はそれっきり姿を見せない。
そうこうしている間にミキとクウゴが広間に入ってきた。ミキいわく大切にしていた歴史書が突然消えたとのことだ。また何処かへ旅立ったかもしれないとグライトの城の図書室を調べたいと言っていた。
その時は出てこなかったのだが、後々グライトの手元に現れた。その時空白のページは新しく造られていて、著作者「アルベラ・カガリ」となっていた。グライトは驚いて電報を出す。
「あ、そうだ」
グライトは駆けだした。書斎から抜け、ユーノを探す。ユーノはどうやら一緒にこの城に住んでいるらしい。
「ユーノ!」
ユーノがいたのは厨房だった。コックの人と親しげに話している彼女は、慌ただしく入ってきたグライトに驚き、返事をする。
——「好きだよ! 君が、好きだ。これからもずっと一緒に居てほしい。俺は不甲斐無いだろうけど、それでも君が好きだから……」——。
突然の告白にユーノは顔を真っ赤にして嬉しそうに綻び涙目になり、慌ててグライトを引っ張って厨房から出て行った。
コックはそんな二人を温かく見守っていたそうだ。
「バカ! 恥ずかしいでしょ、あんなところで……てかムードもないじゃん……」
「言っとかなきゃと思ってつい……」
ハハと情けなく笑うグライトは新鮮なユーノの反応にちょっと驚いていた。
——「もう! でもボクも好きだよ……ずっと一緒に居ていいなら、ずっと一緒に居たい」——。
恥ずかしそうにそう言ったユーノにグライトは笑いかけた。
数日後結婚披露宴だということであちらこちらから人が集められた。もちろん友人である各大陸の彼らもだ。久しぶりに集まる皆は少し大人びていて、グライトはなんだか懐かしく思った。
≪終≫