複雑・ファジー小説

Re: ANIMA-勇者伝-【オリキャラ募集中】 ( No.54 )
日時: 2014/02/01 22:32
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: u/Zf4dZT)



 グライトとミキはリーフ大陸に向けて、広いモート大陸を抜けようとしていた。ミキの予想と記憶によれば、桜花和国が見えてくればリーフ大陸はすぐらしい。
途中、凶暴な魔物や好戦的な魔物がうじゃうじゃいると言う説明をグライトにしていた。丸腰のグライトを心配してか、桜花和国へ着いたらすぐ武器でも仕入れようと言う気にミキはなっていた。

 ミキはいつも一人で旅をしていたので人と歩くと言う事があまりなかった。グライトの扱いに多少戸惑いながらも仲良く進んでいた。だがやはり人と歩いていると自然といつもよりスピードが遅くなる。色々聞きたい事も山ほどあるが、聞けていない状態だった。

 グライトはと言うと、あっちこっちで気になるものがあるのか、フラフラ何処かに行ってしまいそうになる。ミキに引っ張られながらもなんとか歩いている状態だ。リーブルはグライトの腕の中で大人しく寝ていたり、地面を歩いていたりといつもより距離が近い。どうやらこの猫も落ち着かないらしい。

 呑気なグライトを見て不安になったミキは、最終確認のため、グライトを見て神妙な顔で告げた。

「聞いてもいいですか?」

頷くグライトにミキは続ける。

「あなた戦えたりしますか? ここから先、モートを出たら魔物は一気に増えますし、凶暴化します。僕だけでは守りきれないかもしれません。なので自分の身は自分で守っていただきたいのですが……」

提案したミキにグライトは頷く。本当にわかっているのか不安になるミキ。グライトはのんびりリーブルを手で弄んでいる。

「俺戦えないよ。だってただの村人Aだから。料理とか掃除とか畑仕事とかは出来るけど、武器なんて持ったことない」
「でしょうね。どうにかして剣術でもおぼえてください。魔術までは言いません、あれは才能ですから。でも剣術なら叩きこめば君ぐらいの年齢ならいともたやすく扱えるようになりますよ」
「ふぅん。で、誰に教えてもらおうか?」
「そうですね……」

ミキは桜花和国で誰かと考えたが、あそこに住んでいる「華狼」という民族は、元々人間をはるかに超越した人達だと言う事を噂で耳にした。このソレイユでは珍しい戦闘民族に位置するみたいだ。

昔、戦闘民族は存在した。彼らは何故かその数年後に絶滅している。その生き残りかもしれないと勝手に解決していたミキ。
ただ、華狼と言う民族は特殊な武器と何故か皆狼を連れているらしい。関係がありそうでないと言う結論もあった。

とにかく彼らには彼らにしかこなせない方法で鍛えている。グライトの様なただの人間が耐えられるものではない事は明確だ。

どうしたものか……。

そう考えて隣のグライトを見る。グライトは呑気に欠伸をしていた。そして何かを思い出したように手を打った。

「そうだ、これ!」

そうして懐から取り出したのは始まりの樹の中で拾った折れた木刀。ミキはそれを見て首を傾げる。

「これね、いい木で出来てるんだよ。きっとあの始まりの樹の一部からじゃないかな? リーブルが持ってたんだけど……これって何かあるのかな?」

珍しく察しのいいグライト。リーブルはその木の棒に反応してグライトの肩に登ってくる。
ツンツンと鼻でその木をつつくリーブル。どうやら何かあるらしい。ミキはよく見るためそれをグライトから受け取った。

「うーん、変哲もないただの木の様ですが……?」

手の中で弄んでいると、木はコロコロと地面に落ちた。「あっ」と声を上げて拾い上げようとしゃがむミキ。気付けばどうやら森まで入ってきていたらしい。少し顔を上げるとミキの目の中に魔物が映る。
グライトも気付いたらしい。一気に体の力を入れてそちらを見る。

「あれは……ボアと言う魔物です。気付けば一気にこちらに突進してくるので、足音をたてず無難に通り越す方がいいですよ。あのボアはまだ子供なので近くに群れがあり、ボスがいるはずです。ボスは力が強いので面倒です、気をつけましょう」

冷静に立ちあがりながらそう解説してくれるミキ。グライトは頷き、足音を忍ぶよう歩く。そこでリーブルがグライトの肩から飛び降りた。

「あっ! リーブル、そっちはいっちゃだめだ。さっきミキさんが説明してくれたのに危ないよ!」

グライトはボアに向かって走るリーブルを止めようと自分も走った。その足音に気付き、ボアは突進してくる。突進先はグライトだ。グライトは「ひっ」と小さな悲鳴を上げて横に飛び退く。ボアはそのまま真っ直ぐ走って行く、どうやら避けられたようだ。
ほっと一息ついていると、ミキが叫ぶ。

「ぼーっとしていると危ないですよ! ボアは再び走ってきます!!」

その言葉と共にボアは再びグライトに向かって走ってきた。グライトは慌ててリーブルを抱き上げ、真っ直ぐ一直線に走る。
それを見て苦い顔をしてミキは背中のフルートケースを開けた。グライトが走ったのはボアの攻撃範囲内だったからだ。綺麗に治されていたフルートを取りだし、口をつける。美しい音色と共に、追い詰められたグライトの前に風の壁が出来た。

間一髪でボアの突進から窮地を脱したグライト。リーブルを強く抱きしめてふぅっと息を吐きだす。
グライトの前にはボアが気絶していた。いつ起き上がるかは分からないが、今のうちに逃げようとミキは言う。そんなミキの方を見てグライトは唖然とした。

「う、うしろ……。ミキさん、後ろ!」

グライトの指さす方には6頭のボア達、一際大きなボスと思わしきボアもいた。それぞれが突進の準備をして、足を鳴らしている。
ミキのフルートではきっと間に合わない。間に合ったとしてもあの量だ、きっと避け切れないだろう。
焦るグライト。リーブルは腕の中から身軽に飛び降りミキの方へ歩いて行く。その時にはもうボアが走り出していた。

「リーブル! ミキさん!」

リーブルの後を追いかけて走るグライト、笛を吹くが間に合いそうにないミキ、二人はどうなるのやら——その時リーブルはミキのポケットに飛びついていた。

「な、何をするんですか猫さん!」

邪魔をされて笛を口から話してしまったミキ。ポケットに入れた木片が落ちた。先ほどグライトがミキに渡した始まりの樹から出来た木刀の欠片だ。それを咥え、グライトの方へ転がる様に駆け寄る。
そして——その木片とリーブルが青い光を発して共鳴し合った。グライトが気付いた時には二つは一つになり、グライトの身長を優に超える一本の長い剣になっていた。
驚くグライト、意外にもそれは軽く扱いやすい。それに剣先は細く、よく斬れそうだ。

「それは……?」
「さ、さぁ……?」
「と、とにかくそれであのボア共を切り倒して下さい! 避けますよ!!」

左右の横に飛ぶ二人。ボアはかなり距離を走った後急カーブし、再び突進してくる。
ミキに斬れと頼まれたグライトはとにかくタイミング良く横に振ってみた。青い閃光を発して横一文字に振られるその剣は、見事にボアを貫き6頭共々バタバタと倒れていった。

「や、やったぁ! ミキさんやったよ!」
「すごいですね!」

二人はそう手を取り合って喜び跳ねた。
そんな二人に近づく不穏な音が響く——なんだろうと二人して振り向くと、そこに居たのは先ほどのボアなんて目じゃないぐらいの大きなボア。どこから走ってきたのか、勢いが増していて恐ろしい。二人はさっと顔を青ざめた。
案の定避けられるわけもなく、目前に迫ったボアを見てミキもグライトも目を瞑る。そして死を覚悟した。