複雑・ファジー小説
- Re: ANIMA-勇者伝-【オリキャラ募集中】 ( No.55 )
- 日時: 2014/02/01 22:51
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: u/Zf4dZT)
◆
少しして衝撃が襲ってこない事に二人は気付いた。
恐る恐る目を開けると、仰向けになった巨大なボアが目の前に転がっている。
何が起きたのか、パニックになりかけるグライト。その隣で状況確認のためあたりを見渡すミキ。
「あ、黒い……誰でしょう?」
ミキが指差した方向は細い木の枝の上。そこには黒いマントを羽織った男がしゃがんでいた。
「大丈夫かぁ? お前等」
気軽に手を上げてマントの下で白い歯を見せる男。その怪しげな風貌に一瞬二人は身構えた。
「あぁ大丈夫。俺ぁただの通りすがりの死神だ」
「死神」男は確かにそう言った。そのおぞましい響きはグライトもミキも知っている。死ぬ直前にその人の前に現れ、その命を奪って行く恐ろしい悪魔の様な種族。それが死神と呼ばれる彼らの種族だ。あまりいいイメージでは無い。
そんな男が何故こんな所で人助けなんてやっているのだろう? グライトもミキも顔を見合わせた。
「あのなぁ、お前ら今失礼な事思ったろ? 言っとくけどなぁ、死神ってだけで悪い奴って決めつけられるのは好きじゃねぇ。死神って言うのはただの名前であって、俺達がやっている事は、死を司るわけじゃない、ましてや神なんかじゃない」
その言葉に首を傾げるグライト。ミキは疑いの眼差しを相変わらず向けている。
「じゃあどんな事をやったら死神って呼ばれるようになるの?」
グライトはすっかり木片に戻った木刀を懐に直し、男を見上げた。そう言えば先ほどからリーブルの姿がない。
そんなグライトに、男はよくぞ聞いてくれたとばかりに胸を反らし説明する。
「俺達はな、悪を断ち切る仕事をしてるんだ。大切なことだから覚えておいてくれ。悪を断ち切るにはそりゃぁたまに殺しちゃったりもするんだが、それは最終手段。お前達の様な良心的な人間にはなんも手出しはしない」
男はそう言って木から飛び降りる。頭間に被っているフードだけを取ってその素顔を見せた。
顔は少し焼けていて髪はボサボサ、だがグライトから見てその瞳は優しげだった。
「俺ぁクウゴ・O・デスサイズ。まぁよろしく」
手を差し出すクウゴと名乗った死神。グライトは握手しようと手を伸ばすが、その手はミキによって止められる。
「……怪しすぎます。グライト君、君は何でも信じすぎですよ。彼は死神と名乗った。僕が聞いた話では死神と言葉を交わすと呪われると言う噂があるのですよ」
睨むように見てくるミキに、クウゴは目を見開く。そして焦ったように頭を掻いた。
「ちょ、ちょっとまてよ。怖がんなってば! 死神ったってな、人間とおんなじようなもんなんだよ。俺だって人に接するときは気を使ってんだからさ、こっちの扱いも気ぃ使ってくれよぉ……」
情けなく肩を落とすクウゴ。グライトはこの男がどうも悪い人には見えなかった。だから行き場を失った手を、再びクウゴに伸ばす。
「俺はグライト。呼び方は色々あるから、呼びやすいように適当に呼んで。クウゴさんだっけ?」
友好的なグライトの態度にクウゴはパッと顔を上げる。そしてグライトとしっかり握手して照れたように笑う。やはりグライトにはこのクウゴと言う男は悪い人に見えなかった。
それを見ていたミキは諦めたように「はぁ」と息を吐きだす。
「僕は……ミキ・フィアルトと言います。不本意ながらあなたを信じることにしました」
難しい表情でクウゴに告げるミキ。心境は複雑みたいだ。そんなミキを見てクウゴは快活に笑う。
「お前堅いな。まるでお偉いさんと話しているようだよ」
からかうようにそう言ったクウゴ。その隣でグライトも笑っている。ミキはさらに不機嫌にムッと口を噤んだ。
「わりぃわりぃ。まぁよろしく。で、お前等は何してんだ? ここら辺は夜になるとあぶねぇぞ」
そう言うクウゴにこれまでの経緯をグライトが適当に話した。かいつまんで話したせいか、クウゴは理解に苦しんだが途中ミキが補足をしてやっと理解できたようだ。
そうかそうかと納得するクウゴ。それから考える様に顎に手をやり、宙を見る。
「俺もついてってやろうか? そこまで行く予定だったんだ」
思わぬ申し出にミキもグライトも驚く。
先ほどのボアの件もあってか、ミキとグライトの意見は合致し、クウゴに同行してもらう事にした。クウゴは見る限り腕が立ちそうだ。それにグライトが剣を手に入れたからと言って、まだまだ安心はできない。戦闘員が増える事にミキは単純に喜んだ。
「助かります。グライト君が戦えるようになったからと言っても、まだまだ未熟なので不安だったんです。見た限り腕は立つようなので、こちらから頭を下げたいですね。戦い手としてならば、ですが」
少し引っ掛かるような言い方をしたミキだが、クウゴは頷いた。
そんな中、グライトはリーブルを探すためキョロキョロとあたりを見渡している。どうしたと尋ねるクウゴに、黒猫を見なかったかと問うグライト。クウゴは頭を捻った。ミキもそう言えばと顎に手をやり考える。
グライトは心配そうに木片を見た。そして思いついたように顔を上げる。
「あぁ! もしかしてこの木片の一部になったのかな?」
「それはないでしょう。二つのものが一つになるなんて、錬金術師でもあるまいし……」
「でもおかしい。だったらリーブルはどこに行ったの? また消えたの?」
心配そうに木片を眺めるグライト。それを見てクウゴは「まぁまぁ」と声をかける。
「そのうち出てくるって。猫だろ? 猫って言うのは不思議なものだ。あいつらは何処かに行ってでも必ず帰ってくる、主人って認めた奴の所には絶対帰ってくるはずだ。心配しなくても大丈夫だから、安全な場所で帰りを待とうぜ?」
優しく諭すように言うクウゴ。とりあえずグライトは納得し、ミキとクウゴと共に安全地帯を探すことにした。
◆
森を進むと洞窟が見えてきた。その中で今日は寝るらしい。グライトはつかれていたのかすぐ寝た。ミキも続いて寝入る。だが、クウゴだけは起きていた。
死神と言うのは夜寝なくても大丈夫らしい。流石に何日もとはいかないが、大概は耐えられるそうだ。
今はミキとグライトの安全を守るため一人、番をしていた。もちろんそんな事二人が知る由もなく、安心しきった顔で寝ている。
そんな抜けた二人の顔に少し苦笑を洩らした。
「あれだけ警戒してたのに……おかしな奴」
そう呟いて黒い霧を操るクウゴ。
クウゴの操る黒い霧は彼の持っている大鎌から発せられるものだ。この鎌は便利な鎌で、闇や霊力などあらゆる夜につながる力を持っている。その中でも黒い霧はクウゴの一番大切にしている能力と言っていい。この霧は彼の戦闘を確立し、彼独自のフィールドを展開してくれる。その中でクウゴは無敵になれるのだ。
そんな事を考えながらクウゴは口の端を持ち上げる。
「俺はバカか」
そう呟いて一気に洞窟の入口に黒い霧を張り巡らした。これで魔物にこの場所を見つけられる事はない。夜の闇に溶け込むようにクウゴは睡眠をとった。黒い霧に覆われたような不明瞭な頭の中では、何故か昔の事がやけに尾を引いていた。