複雑・ファジー小説
- Re: ANIMA-勇者伝-【オリキャラ募集中】 ( No.70 )
- 日時: 2014/02/08 21:38
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: u/Zf4dZT)
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そんな話をしている間にサクヤの書斎までたどり着いた。サクヤの書斎は世界地図や戦略、策略、裏工作と言った類の資料が多い。
サクヤはその中から簡略化された地図を取りだす。赤い丸がそこら中に散らばっていた。きっとこの赤い丸は現在戦争が起きている場所だろう。それにしても多かった。
グライト達三人は地図を囲むように立つ。それを確認してサクヤが静かに口を開いた。
「現在激しい交戦をしているのは、ゼルフ率いるドラファー帝国と言うゴンドラ大陸出口付近の大帝国と、ゴンドラ大陸入り口付近にあるパルメキア王国。双方とも強大な武力と富を得ている国だ。
何故彼らが争っているのか、それはどちらがゴンドラ大陸をおさめるかと言う些細な事から始まったらしい」
サクヤははぁっとため息を吐きだす。なんて愚かなことだと呆れているのだろう。
グライトは続きを促した。サクヤは返事をし、続ける。
「ドラファー帝国と言うのは魔族が住んでいる国だ。裏では奴隷売買と言う商売もしているようだが……今のところその証拠は上がっていない。このドラファー帝国と同盟国であるエターナル王国は平和と愛を尊重している戦争には全く不向きな国だ。何故悪魔と手を組んだのか、何か陰謀がありそうだがこれも今のところ表立っていない。
次にパルメキア王国の事なんだが……この国は昔、エターナル王国の様な所だったんだが、王が変わってから国の制度が絶対王政に変わったらしく、今は戦争ばかりしている。この国は後ろ暗い所はないらしいが、なにせこのパルメキア王国はあまり外交を好としていない。だから何故戦争を始めたのかもわからない。そもそもここの情報は国外にあまり明かされていない……よくわからない事が多いんだ」
そこまで言ってサクヤは地図から顔を上げた。その顔は何処か暗い。
「私達が渡せる情報はこれまでだ。これ以上は踏み込めば後に引けなくなる。それに……あなた方には関係のない話しも多い」
そう言ってそれ以上は語らないサクヤ。そんな彼女にクウゴは尋ねる。
「お前達華狼はなんで戦争に関係してるんだ? 戦闘民族と言えどそんな遠くまで言って戦いたいものなのか?」
「戦いたいわけじゃない。私達が戦争に関与しているのは自分の国と国民を守るためだ」
「って言ってもそんな遠い大陸の戦争なんてこっちに全く関係ないだろ?」
サクヤは黙った。そしてはぁっと息を吐きだす。
「……あなたはそれを聞いてどうする? 止めてくれるのか? 戦争はもうここまで手が届こうとしている。私達は最前線でそれを食い止め、事前に国を守るまでだ。それに最近は黒雲がモートまで来た。……それと不明確で何とも言えないんだが、嫌な予感がするんだ」
さらに暗い顔になったサクヤ。クウゴはそれ以上尋ねなかった。
三人は大人しくこの屋敷を去ることに決める。沢山聞きたい事はあったが、それは国家機密だと言う。やはり情報なんてそう簡単に渡せないのかもしれない。現在戦争を指揮するのは指揮官でも総司令官でもない……戦争を制するのは情報だ。そんな重要なものをただの旅人にサクヤは簡単にさらけ出せなかったのだろう。
門の所まで来てミキが口を開いた。
「聞きたい事があるのなら、それは後日、個人的に尋ねる事にしましょう。それよりお花見をするのでしょう? 夜桜もいいものですよ」
そう言ったミキが一番聞きたい事が沢山あっただろう。
グライトとクウゴはお花見と言う言葉に元気を取り戻し、その日は桜の木の下で夜桜を楽しむことにした。
◆
桜の下、特等席にグライト達三人は座って宴会をしていた。気付けば周りに沢山の人がいた。彼らも桜を楽しみに来たのだろうか? クウゴは周りの人達と楽しそうに話している。ミキは酒が弱いのか、もう酔い潰れて寝息を立てていた。大人は大人で楽しんでいるみたいだ。
そんな中、グライトは一人物思いに耽る事にした。グライトにとっては外の世界と言うのは初めてみる物が多く、これからもそんな色々な物を見られると思うと楽しみでしかたなかった。
そこでクウゴが輪を離れ、グライトの背中にもたれかかってきた。一時的にグライトの思考は遮断される。
「重い……」
「あ、そう言えば俺聞いたことあるぞ」
酒をかなり含み気分を良くしたクウゴはそう言い、軽い口を開く。なになにとグライトは興味津々で振り返る。
「桜がなんで紅いか……」
「え? そんなの……うーん、なんでだろ?」
「一説では血を吸って育つかららしい」
唐突にそんな事を言い出したクウゴ。真意を掴めずグライトは黙ってクウゴの話を聞くことにした。
「桜ってこえぇよなぁ、犠牲の上に育っているんだからな。あれだな、戦争と一緒だな。人を殺して、殺して殺して殺して殺して——……その中で生き残った奴が正義だ。……そいつが桜なんだ。皮肉な説だよ」
言い終え、手に持っていた酒瓶をラッパ飲みする。グライトはそれを背中に感じながら自然と口が動く。
「……俺は桜すきだけどな、ホッとするって言うのかな? わかんないけど」
グライトの呟いた言葉に驚き、少し笑いながら遠くを見るクウゴ。何か昔の思い出でも思い出しているのか、その目はとても虚ろだった。
「クウゴさんは」
「クウゴでいいぞ」
「じゃあクウゴは戦争に出た事があるの?」
その問いにクウゴは答えず、苦い顔で笑うだけだった。
グライトはそんなクウゴの話をいまいち理解できなかった。いつかわかるかな、そう思い手に持っていたジュースを飲みほした。
「戦争なんてよくない、誰だってわかる。……どうにかして止めてやれないもんかなぁ?」
「そうだね〜」
二人はそんな会話をして桜を見上げた。その後ろには、桜を浮き上がらせるようにライトアップしている儚げな美しい月が浮かんでいた。