複雑・ファジー小説

Re: ANIMA-勇者伝-【オリキャラ募集中】 ( No.71 )
日時: 2014/02/08 22:02
名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: u/Zf4dZT)

第六話 例えば……

 翌日、グライト達三人はそれぞれ自分のやりたい事をこの国で済ませることにした。
グライトはリーブルを探す。ミキはもう一度この国の図書館へ行き例の歴史書を探す。クウゴは市場の方へ赴き旅を続けるための食糧を確保する。三人はその話に納得し、朝から用意をさっさと済ませていた。
旅館の前でミキは再び合流場所を確認する。

「合流場所はこの国の入口、時間は夕方。迷子になったら、とりあえずこの国の中心にある大きな広場の狼の銅像を目指すのです。わかりましたか?」
「はぁい」
「わかってるって……朝から何回言うんだよ。お前は母ちゃんか」

それぞれの返事の後、好きな所へ歩く三人。どことなく楽しそうだった。



 グライトはリーブルを探すため桜花和国全体を見てうろうろしていた。
だがどこを歩いても狼の姿しかない。グライトが少し落ち込み、肩を落としていると目の前に白い何かが横切った。
思わず目で追ってみると、そこに居たのは美しい白い狼。背中に何か背負っている。
グライトはその狼の事が気になり、後に続く。

少し歩いて白い狼はグライトを鬱陶しそうな目で見る様になった。
元々グライトの存在を白い狼はわかっていたようすだ。白い狼はグライトを撒くため、走りだした。

「あ、まって!」

叫び、グライトはその白い狼を追って角を曲がった。

「あ……」

その角は民家の裏、比較的人の少ない薄暗い通り。そこに浮かび上がるような白が座っている。
グライトは近くまで恐る恐る近づき、手を伸ばす。白い狼は大人しく、噛む事はしなかった。白い毛はふかふかでしっかりしている。不思議とその狼からは昨日感じた桜の匂いがしていた。

「へへ……ねぇお前、なんて名前? どこの狼? 華狼って言う人達の?」

グライトは答えるわけないと思いつつも尋ねる。
予想通り白い狼はしゃべる事はしない。その代わり、ついてこいとばかりに歩きだした。グライトの歩調に合わせて自然とゆっくり歩く賢い狼は随分人になれていた。
だれのだろうか? どこからきたのだろうか? そんな疑問がグライトの中に浮かぶ。

 少し狼について歩いていると、見慣れた屋敷に出てきた。その屋敷は昨日訪れたサクヤの家。グライトは少し戸惑った。だが白い狼は門の前で待っている。勝手に入っていいのかと思いながらも、グライトは思い切って後に続いた。

屋敷に入ると昨日見たのと同じ広い庭が広がっており、本宅へたどりつくとその引き戸を白い狼は前足で少し叩く。それに反応して中からサクヤが顔を見せた。一瞬グライトがいた事に驚き、白い狼に確認を取るよう視線を送った。意志疎通できるのか、サクヤは快く歓迎してくれた。

客間へ招かれたグライト、落ち着きなく畳に座っているとお茶が運ばれてきた。

「驚いた……まさかメイルが人を連れてくるなんてね」

昨日より柔らかいサクヤにグライトも安心する。

「メイルってあの白い狼の名前?」

そう尋ねるグライトにサクヤは笑顔で頷いた。相当自慢であるらしく、メイルを傍まで呼んで隣に座らせた。

「この子は私が小さいころから一緒に居るパートナーなんだ。昔川に溺れかけた時にも助けてくれた……優しい子なんだよ」

サクヤの膝に頭を乗せているメイルを撫でながら、サクヤは少し昔の話をしてくれた。

「私が小さい頃は、ソレイユから脅威が去ったばっかりの頃だったんだよ。この桜花和国も国を上げて盛大に祝ったんだ」

そう言うサクヤの瞳は少女に戻ったように輝いていた。

「脅威?」
「そう、昔大災害が起きたんだ。影ノ皇がこの世から去り、アンブラーがまだ力を持っていない時だ。大災害って言うのは自然災害のことでね、それは大変だったんだ。海は荒れ狂い、大地はひび割れる。わからないだろうなぁ……日常的に危険が隣り合わせの状態なんて」

哀しそうな顔でそう告げるサクヤ。グライトは素直にわからないと言った。そう言うとサクヤはふっと吹きだし、優しげな瞳を向ける。

「知らない方が良い、ロクなことじゃないからな」
「そうなの?」
「あぁ、君の様なまだまだ未来が決まっていない子供は、幸せだけを知っていればいいんだ」
「でも……」

そう言ってグライトは言い淀む。サクヤは続きを促した。

「それだけじゃロクなニンゲンにならないって俺の村のお婆ちゃんやお爺ちゃんが言ってたよ?」

純粋にそう言うグライト。サクヤはそんなグライトに苦い顔をするだけだ。
少し間が空いた。縮まりかけていた距離がまた開く、そんな不安をグライトは感じた。
失敗した、グライトはただそう思う。そこでサクヤが口を開いた。何を言われるのか身構えるグライトだが、その言葉に驚かされる。

「君は意外と大人なんだね。話して見た所、まだまだ子供って感じだったんだけど……」

その言葉にグライトは首を傾げる。

「大人な君には話していいかな……」
「なにを?」
「私が考えている戦争状況。ただの独り言だから、聞き流してくれるか?」
「わかった」

サクヤはその返事を聞き、遠くへ思考を飛ばした。どこから話そうか……そんな様子がうかがえる。
結局考えてもどこから話していいのかわからなかったので、思っている事だけを言ってみることにした。

「この戦争はきっとあの黒雲に関係していると私は考えている。あの黒雲と言う雲は昔唐突に現れたらしく、そのおかげでソレイユの民に闇が生まれた。その闇が今再発しているんじゃないかって思ってさ」

サクヤはそこまで言ってハハとから笑いをする。

「まぁ事実はわからないんだけどね、なにかあるはずだ。今回の戦争はその闇が拡大化した物だと思う。きっと裏で手引きしているのはエターナル王国だ」

言いきったサクヤにグライトは何故そう思うのか聞く。サクヤは体を乗り出し「此処だけの話」と言った。

「エターナル王国は今ドラファー帝国と同盟を組んでいる、そのはずなのに一切戦争の被害を受けていないんだ。怪しいと思わないか? きっと此処に何か争いの元があってドラファー帝国もパルメキア王国も狙っているんだ」

すっかりさめたお茶をサクヤは呑みほして話しを続ける。

「エターナル王国は平和で有名だ。ただそれは表立った物かもしれない。本当はそこに頭の切れる王様が座っていて、うまく民衆や隣国を動かして何かを守っているんじゃないかな? その事にきっとドラファー帝国は感づいていると思う。利用するために近寄ったと考えたら辻褄が合うと思わないか? お互い利用するために近寄った、きっと何かがそこに絡んでいるんだ」
「パルメキア王国は?」
「パルメキア王国はその何かが必要なんだ。だからエターナル王国を攻めようと目論んだ。だがその情報は何らかの方法でエターナル王国に漏れた。だからエターナル王国はドラファー帝国と手を組んだ。ドラファー帝国もその何かを知っていて隙あらば奪ってやろう、ついでにエターナル王国を合併してやろうなんて考えているんじゃないかな?」
「じゃあ昨日言ってたゴンドラ大陸の支配って言うのはカモフラージュって事?」
「きっと外にその何かがばれるのを嫌がったんだ」

サクヤはそれから黙った。難しい顔で横に流している前髪を払った。

「まぁ全部私の憶測なんだけど」

そう付け加えた。

「もっと何かあるかもしれない」

言いながら意志の強そうな桜色の瞳が輝く。まるでその目は獲物を見つけた狼の如く鋭い瞳だった。
グライトはそこで一つ疑問が浮かんだ。間を図り、少し経ってからグライトは考え込んでいるサクヤに尋ねる。

「ねぇサクヤさん達華狼がなんでその事に関与するようになったの?」

グライトの疑問にサクヤは言い淀む。そして諦めたように口を開いた。

「最初はドラファー帝国から正式に来た依頼だったんだ。国外で戦争が起きたら私達は呼ばれる。だが遠いし、あまり関係ない所だったから断ろうとしたんだ。でも秘宝があるって、戦争で勝利したらそれを報酬として渡すと言ってきたんだ。秘宝って言うのは七つの秘宝、伝説上に登場するあの秘宝だ。君ぐらいなら知らないかな?」
「その秘宝が国のどこにあるって言ってたの?」
「わからない。ただくれると言うばかりで……きっと罠だろうそう思ったが私はその秘宝に興味を持っていた。だから関わる様になったんだ。それだけだ」

サクヤはそう言って迷うように視線を彷徨わせた。きっと今でも迷っているのだろう、このまま戦争にかかわり続けるか、手を引くか。
国のためには手を引くのが一番の選択だろう。だがサクヤはどうしてもその秘宝を一目見たかったらしい。我儘とわかっていながらも今もかかわり続けている。国民と国を愛する彼女の葛藤が窺えた。

グライトはそこですっかり忘れていた時間を思い出す。夕方、門の前に集合。外を見てみるとすっかり陽は落ち、オレンジと黒い雲が入り混じっていた。

「大変! 今日この国を発つ予定だったんだ! もうミキさんもクウゴも集まってるかもしれない、ごめんサクヤさん。俺、行かなきゃ!」

慌てて立ち上がり、膝を机に打ち付けるグライト。それを見てサクヤはふっと吹きだした後、メイルを呼び寄せた。

「私達が送ろう。きっと間に合う」

表へ一緒に出て行くグライトとサクヤ、そしてメイル。どうやって送ってくれるのか、グライトは気になった。