複雑・ファジー小説
- Re: ANIMA-勇者伝-【オリキャラ募集中】 ( No.77 )
- 日時: 2014/02/09 18:47
- 名前: 愛深覚羅 ◆KQWBKjlV6o (ID: u/Zf4dZT)
第七話 笑顔
グライトとミキ、クウゴは桜花和国を後にしてとうとう大陸の境界線まで来ていた。あと一歩踏み出せばリーフ大陸へ入れる。三人は再び自分達の意志を確認し、これから何が起きるのか楽しみにしながらも、ゆっくり足を下ろそうとした。
その時、三人の視界の端にボロボロになった布切れが倒れている事に気が付く。
それが人だとわかり、先ほどまでの穏やかな気持ちは何処かへ——慌てて三人はリーフ大陸へ走り、倒れている人に駆け寄った。
どうやら倒れていたのは少女のようだ。まだグライトと同じ歳だろう。
幼い少女の体は痣だらけで痛々しい。顔にも左目の上から頬まで大きな切り傷があった。
少女の手には日本刀の様な刃物が、きつく握り締められていた。
あまりにも異様だが、ミキはとりあえず応急処置をして、近くに生えていいた大きな木の根元へその少女を寝かす。グライトとクウゴがその間近くの川のほとりで水を汲んできた。
「目、さましたぁ?」
グライトはそう言って水の入ったバケツの様な物を持って走ってくる。ミキは走るなと言うが、グライトは構わず走り続けた。
そして案の定、グライトは少女に近づく一歩手前で足を引っ掛け、持っていたバケツを思い切りぶちまける。
その水は先ほど目を覚まさなかった少女に覆いかぶさった。
「………!!」
少女は飛び起きた。現状を確認する。そこにはミキに怒られているグライトが目に入る。
何故自分が水を被っているのか、そんな事よりも彼らが敵か味方か、少女にとってそれだけが重要だ。
そんな少女にグライトは駆け寄り、隣に座る。
「ごめんごめん、えっと……名前は? なんであんなところに倒れてたの?」
知らない少年に質問を浴びせられ、ついでに水までかけられた少女は、グライトを観察するように紫の瞳を鋭く輝かせ、まじまじと見た。
グライトに敵意はないと感じたのか、少しだけ肩の力を抜く。
「俺は……ソラだ。ソラ・レッドドラン……別に好きであそこで寝ていたわけじゃない」
冷たくそう言ってそっぽを向くソラと言う少女。グライトは「そっか」と軽く言って笑顔を向ける。
グライトの気の抜けた笑顔に、その時ソラは眉をピクリと動かした。そして思い切りグライトを叩いた。
パァンッ
快活な音を鳴らしてソラの平手打ちが放たれた。グライトは驚いた顔でソラを見ていた。ソラは悪びれなく、ムスッとした表情で驚いたグライトを眺めていた。
グライトは少し間を置き、慌てだす。
「ご、ごめん。水かけられたのそんなに嫌だったの?」
あまりにも見当はずれな言葉。ソラは赤茶色の髪を逆立たせた。
「笑うな……平和ボケ。俺はお前の笑顔嫌いだ」
拒絶するように黒いパーカーの帽子を深くかぶって、ソラは目を合わそうとしない。グライトは困り、鍋の火を確認しているミキと、少し遠くで歩いているクウゴに視線を送る。
「……とりあえず、あなたの現状でも確認しますか?」
ミキが鍋をかきまぜながらそう助け船を出した。
「あなたの素性は知りませんが、そこに倒れていたのは事実です。そして僕たちは旅をしている者です。あなたが殴った少年はグライト、僕はミキ、そっちで呆けているのがクウゴです。僕たちはみんな、敵意はありません。どうか気を鎮めてくれませんか?」
ミキが冷静な声でそう言った。ソラはフンと鼻を鳴らす。
グライトはソラの隣で頷いていた。頬は赤くなっている。グライトの後ろから遅れて駆け寄ってきたクウゴは、グライトのその頬を見て苦い顔になった。
「そういうことだ。おいライト大丈夫か?」
「うん。殴った事はいいんだけど……ねぇ君、服ボロボロだけど俺の貸そうか?」
全く怒りを見せないグライトを見て、ソラは少し口を半開きにする。単純に驚いているのだろう。突然殴った知り合いでもない女に、怒るどころかまだ関わろうとしてくるこのバカな子供に。
何とも言えない、そんな気持ちと同時にギリと歯を鳴らす。何故かグライトに怒りを感じるのだ。その怒りは何なのかわからない。だからもう一度殴ってやろうと手を振り上げる。
「ストップ」
その手は放たれる事はなく、無念にも一回りも二回りも大きな手に止められた。止めたのはクウゴだ。きっとソラの考えを読んだのだろう。クウゴは死神だけあって人の心の変化、精神状態に敏感だった。
「仮にも助けてもらってんだ。お前の事情は知らないが、身の程をわきまえろよ」
厳しいとも優しいともとれる声。ソラは怒りをおさえた。
「……もう関わらないで」
突き放すように言ってソラは立ち上がる。
「まって! どこに行くの?」
グライトはソラの手を掴んだ。どうも心配なのだろう。
ソラはきっと大変なことを背負っている、そう自然と感じ取ったグライトは彼女に関わり続けようとする。
だが、ソラはそんな同情はいらないと冷たい視線を送る。掴まれた手を払い、走り出そうとした時、ミキにぶつかった。
ミキは手に鍋を持っている。グライトとクウゴが汲んできた水でシチューでも作ったのだろう。
「とりあえず昼ごはんでも食べますか? お腹がすいているでしょう?」
「いらない」
そう言うソラだが、腹の虫は求めているらしい。
優しく微笑んだミキは、ソラを元座っていた場所に半ば強制的に座らせて鍋を地面に置いた。そしてグライトの方を見てクウゴと同じような顔になる。
「グライト君、あなたは頬をそこの水で冷やしなさい。腫れていますよ」
「はぁい」
返事をしてグライトは残りの水で顔を洗う。
「冷やしなさいと言ったのですよ。そんな乱暴に洗ったら貴重な水が無くなります。タオル、そこに置いていますから」
ミキは鍋の中身を四人分に分けながらグライトに告げる。グライトはもう一度返事をした。