複雑・ファジー小説
- Re: 〜闇の系譜〜(外伝) ( No.126 )
- 日時: 2017/01/16 18:15
- 名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: 5VHpYoUr)
『桃太郎』
昔々、ある所に、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
毎日、おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行って、二人は慎ましく暮らしておりました。
そんな、ある日のこと。
いつも通り、おばあさんが川で洗濯をしていると、川上から、どんぶらこ、どんぶらこと、大きな桃が流れてきました。
「おやまあ、なんて立派な桃でしょう」
おじいさんへの良いお土産になると思ったおばあさんは、桃を川から拾い上げ、大喜びで家に持って帰りました。
日が暮れて、おじいさんが芝刈りから戻ってくると、二人は、早速桃を食べることにしました。
しかし、おばあさんが桃を切ろうと、包丁を振り下ろした瞬間。
突然、桃からずばっと手が出てきて、包丁を白羽取りしました。
「やめてください、危ないじゃないですか」
その声と共に、桃を自力で割って中から現れたのは、なんと小さな女の子。
衝撃の出来事に、最初は驚いたおじいさんとおばあさんでしたが、二人には子供がいなかったので、その女の子を育てることにしました。
女の子は、トワリスと名付けられ、大切に大切に育てられました。
彼女は、男勝りな性格で、かつ桃から生まれたので、桃太郎というあだ名で親しまれ、村でも評判の、働き者の娘に成長しました。
ある日、麓の村で買い物をしていた時。
桃太郎は、こんな噂話を耳にしました。
「ねえ、ついに隣のノーレント村にまで鬼が現れたらしいわよ。なんでも、村中の金銀や高価なものを、根こそぎ奪っていってしまうんですって」
「おまけに村娘をさらって、鬼ヶ島で散々こき使っているって聞いたわ」
「どうしよう、次はうちの村に来るんじゃないかしら。怖いわ……」
今にも泣きそうになりながら、怯える村娘たちを見て、桃太郎は、思いました。
(……もし、本当にこの村を鬼が荒らしたら、買い物も出来なくなるし、今後、日雇いの仕事ももらえなくなる。そうなると、うちの今の経済状態じゃ、生活が厳しいな。……仕方ない、やられる前に、私が先手を打って鬼を退治しに行こう)
そう決心した桃太郎は、家に帰って、早速その旨をおじいさんとおばあさんに話しました。
「おじいさん、おばあさん。突然ですが、鬼ヶ島に行って、悪い鬼を退治しに行ってきます。大丈夫、腕には多少自信がありますし、一月後には帰ってきますから」
おじいさんとおばあさんは、最初は不安げでしたが、桃太郎がとてつもなく頑固で、一度決心したことは絶対に覆さない性格だと知っていたので、最終的には賛成してくれました。
おばあさんは、道中食べられるように、とびきり美味しいきびだんごを作って、桃太郎に持たせました。
こうして桃太郎は、鬼ヶ島へ鬼退治に旅立ったのです。
- Re: 〜闇の系譜〜(外伝) ( No.127 )
- 日時: 2017/08/19 02:28
- 名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: C8ORr2mn)
家を出発し、麓の村を出た矢先。
桃太郎は、道端にぐったりと倒れる、犬を発見しました。
茶色い毛並みの、狼に近い日本犬です。
「……大丈夫?」
思わず声をかけると、犬は、力ない声で言いました。
「お、お腹がすいて、もう一歩も歩けないんだ……」
桃太郎は、腰の袋に入れてあるきびだんごを取り出すと、それを犬の口に近づけました。
「犬がきびだんご食べられるか分からないけど……お腹がすいてるなら、あげようか?」
桃太郎がそう問いかけると、犬は、ぱっと目を輝かせました。
「食べる!」
結局犬は、よほどお腹がすいていたらしく、桃太郎が持っていたきびだんごを、全て食べてしまいました。
旅を開始して早々、きびだんごがなくなったのは痛手でしたが、おかげで犬はすっかり元気になりました。
嬉しそうに駆け回りながら、犬は言いました。
「助けてくれて、ありがとう! 俺はユーリッドって言うんだ。お前の名前は?」
「トワリスだよ。でも、あだ名が桃太郎で、そっちで呼ばれ慣れちゃってるから、桃太郎って呼んで。私、今から鬼ヶ島に鬼退治に行くんだ」
それを聞くと、ユーリッドははっと何か思い付いたように、桃太郎を見ました。
「鬼退治か、なんかかっこいいな! よし、きびだんごをくれたお礼に、鬼退治を手伝うよ! 俺、力に自信あるし、足も速いから、きっと役に立つぞ!」
桃太郎は、ユーリッドの申し出を受け入れるかどうか、少し迷いました。
しかし、考えてみれば、鬼の強さもよく知らないし、戦力が多いに越したことはありません。
桃太郎は頷いて、旅の仲間に犬のユーリッドを加えることにしました。
- Re: 〜闇の系譜〜(外伝) ( No.128 )
- 日時: 2017/08/19 02:31
- 名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: C8ORr2mn)
桃太郎は、ユーリッドと共に長い長い道のりを歩き、今度は森の中に入りました。
旅は順調でしたが、ずっと歩いていたせいか、ふと、ユーリッドが嘆息しました。
「はあ、なんか、またお腹すいてきたなぁ」
「……あんたがきびだんご、全部食べちゃったからね」
呆れたように、桃太郎は言いました。
ユーリッドは、それを皮肉だとも気づかずに、ひくひくと鼻を動かすと、近くの木に、美味しそうな果実が生っているのを見つけました。
しかし、果実は木の高い位置に生っていて、桃太郎やユーリッドではとても届きそうにありません。
困ったユーリッドが、どうしたものかと木の下でうろうろしていると、突然、果実が落ちてきて、ユーリッドの頭にこつんとぶつかりました。
「お求めのものは、それ? 欲しいならとってあげるから、昼寝の時間を邪魔しないでくれない?」
頭上から聞こえてきた声に、桃太郎とユーリッドが顔をあげると、木の上に、一匹の猿が腰かけていました。
白銀の毛並みを持つ、珍しい猿です。
「おお、ありがとう! 猿!」
「その呼び方やめてよ。俺にはルーフェンって名前があるの」
ルーフェンと名乗った白銀の猿は、すとんと木の上から降りてくると、ぴんとユーリッドの額を指で弾きました。
しかし、隣にいた桃太郎の顔を見ると、すぐに驚いたように目を見開きました。
「あれ、トワじゃん。こんなところで、何してるの?」
桃太郎は、ルーフェンの顔を見返すと、はぁっとため息をつきます。
ユーリッドは、そんな二人を交互に見ながら、首をかしげました。
「二人は知り合いなのか?」
「いや、知り合いと言うほどでも」
即答して、桃太郎は、じろっとルーフェンを睨みました。
「……ルーフェンさんは、よく村に来ては、白銀の毛が珍しいって言うんでちやほやされて、しょっちゅう鼻の下伸ばしてる猿なので、なんとなく覚えてるだけだよ」
「その言い方は、ちょっと悪意ない?」
からからと笑うルーフェンに、桃太郎は、再びため息をつきました。
「……私達、これから鬼ヶ島まで、鬼退治へ行きますので、ルーフェンさんに構ってる暇はありません。それでは」
「は? 鬼退治?」
ルーフェンは、怪訝そうに眉を寄せると、立ち去ろうとした桃太郎に詰め寄りました。
「鬼退治って、なんでまたそんな面倒臭そうなことを。トワがいくの? この犬と二人で?」
「俺はユーリッドだ!」
憤慨するユーリッドをよそに、桃太郎も、ルーフェンを見つめ返しました。
「そうですけど。だってしょうがないじゃないですか、村が鬼に荒らされたら、困りますし」
「…………」
ルーフェンは、何かを考え込むように黙ってから、にっこりと笑って言いました。
「よーし、じゃあ俺もついていってあげよう!」
「はい?」
途端に、桃太郎は疑わしそうな表情を浮かべました。
「どういう風の吹きまわしですか? さっき、面倒臭そうとか言ってたくせに」
桃太郎の冷たい態度もなんのその。
ルーフェンは、へらへらと楽しそうに言いました。
「えー、別にいいじゃん。俺はそんじょそこらの猿と違って、綺麗だし頭もいいし、連れていって損はないと思うよ。それに、鬼ヶ島には、拐われた村の女の子たちもいるんでしょ? そう思ったら、急にやる気がわいてきたんだよね」
俺は気まぐれだから、そう付け加えて笑うルーフェンに、桃太郎は肩をすくめました。
ユーリッドも、呆れた様子でルーフェンを見ていましたが、やがて、小さく息を吐くと、桃太郎に言いました。
「まあ、別に構わないんじゃないか。仲間が多いに越したことはないだろ」
「…………」
こうして、鬼退治の旅に、猿のルーフェンも加わったのでした。