複雑・ファジー小説

Re: 〜闇の系譜〜(外伝) ( No.135 )
日時: 2017/09/08 08:11
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: C8ORr2mn)

「いや、桃太郎殿の言うことは正論だ。もし仮に、全員であの赤鬼を倒したとしても、鬼ヶ島の中には、他にも大勢の鬼達が待ち受けているだろう。それらをたった一人と三匹……しかも、桃から生まれちゃった系女子と、犬と猿と雉で全滅させようというのは、はっきりいって無謀な話だ。我々がとって喰われる可能性の方が高い」

「…………」

 再び、一人と三匹の間に、重い沈黙が流れます。

 桃太郎は、悔しそうに地面を殴ると、頭を抱えました。

「……くっ、私の馬鹿っ! なんで虎とか狼とか鷲にしなかったんだろう!」

「というか、この辺の領主に頼んで、武士とか招集すれば良かったんじゃないの?」

 もはや、状況は絶望的──。
その時でした。

 ぎゅるるっと凄まじい音が響いてきたと思うと、大扉の前に仁王立ちしていた赤鬼が、突然苦しみ出しました。
ただですら険しかった顔を、更に険しくして、身体をくの字に曲げ、腹を押さえています。

 何事かと目を見開いて、一人と三匹は、赤鬼のほうを見つめました。
途端、赤鬼は、苦悶の声をあげながら、くるりと振り返って、大扉をばんばんと叩きました。

「おいっ、おい! まだ便所は空かないのか! 俺ぁもう限界だ! 見張りを交代してくれぇ!」

 涙声になりながら、赤鬼が叫びます。
すると大扉の向こうから、別の鬼のものとおぼしき声が聞こえてきました。

「うるせぇ! 俺だって、便所から出られないんだ! もう無事なのは俺達だけだし、もう少し辛抱してくれっ!」

「そっ、そんなぁ……」

 赤鬼は、悲痛な声をあげると、その場にうずくまりました。
そうしてしばらく、襲いくる腹痛に耐えていたようでしたが、やがて、吐き気まで催したのか、口を手で覆うと、倒れてしまいました。

 全身から脂汗を噴き出し、悶え苦しむ赤鬼。
一体何が起きているのか理解できず、呆然とその様を見つめていた桃太郎たちでしたが、ついに、赤鬼が呻き声すらあげなくなると、恐る恐る、大扉の前まで近づいてみました。

「な、なにが起きたんだ……?」

 戸惑った様子で赤鬼の顔を覗き込み、ユーリッドが言いました。
赤鬼は、口から泡を噴いて気絶したらしく、ぴくりとも動きません。

 次いで、大扉の向こうから悲鳴が上がったかと思うと、だんっ、と大きな音がして、地面が揺れました。
どうやら、先程赤鬼と話していた鬼も、倒れたようです。

Re: 〜闇の系譜〜(外伝) ( No.136 )
日時: 2017/09/13 00:48
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: 393aRbky)




 予想もしなかった事態に、一人と三匹が立ち尽くしていると、ふいに、大扉が小さく開きました。
一瞬、鬼が現れたかと身構えた桃太郎たちでしたが、大扉から出てきたのは、可愛らしい娘でした。

 鳶色の髪と瞳をしたその娘は、ユーリッドとアドラに気づくと、ぱっと笑顔になりました。

「ユーリッド! アドラさん!」

「ファフリ!」

 ユーリッドがぴっと耳を立て、驚いたように声をあげます。
ファフリと呼ばれた娘は、駆け寄ってきてユーリッドに抱きつくと、嬉しそうに言いました。

「ユーリッドもアドラさんも、久しぶりね! 私のこと、助けに来てくれたの?」

 ユーリッドは、アドラと顔を見合わせてから、ファフリに尋ねました。

「ファフリ、もしかして、鬼ヶ島に拐われてたのか?」

「うん、そうなの……」

 拐われた時の恐怖を思い出したのか、ファフリは、怯えたように返事をしました。

「……私だけじゃないわ。この鬼ヶ島には、他にも村の女の子たちが沢山捕まってて、ご飯を作らされたり、お掃除させられたり、鬼達に散々こき使われてたの。でも、昨晩の夕飯を私が作ったら、それを食べた鬼達が皆、次々と倒れ出して……。今なら逃げられそうだなって思ったから、逃げてきちゃった」

「…………」

 ユーリッドとアドラが、何かを察したように、黙り込みます。
話についていけない桃太郎とルーフェンは、同時に首をかしげました。

「えっと……ファフリちゃん、だっけ? ユーリッドくんたちと知り合いなの?」

 ルーフェンの問いに、ファフリは微笑んで頷きました。

「ええ。私、ノーレント村に住んでるのですけど、ユーリッドやアドラさんには、子供の頃によく一緒に遊んでもらったの」

 次いで、桃太郎が尋ねました。

「……ちょっと待って。さっき、次々と鬼達が倒れたって言ってたけど、作った夕飯に毒でも混ぜたの?」

 ファフリは、ぶんぶんと首を振りました。

「まさか! 毒なんて持ち歩いてないもの。普通に、頑張って作ったのよ」

「まあ、ファフリの料理は、ちょっと前衛的な味がするからな!」

 無邪気に笑って答えたユーリッドに、アドラが付け足すように説明しました。

「ファフリの料理の腕前は……その、なかなか上達しなくてな。私も以前、ファフリが作ったものを口にしたことがあるが、三日三晩、激しい下痢と嘔吐に見舞われて、体重が激減した」

 ファフリは、ぷくっと頬を膨らませると、怒ったように言いました。

「もう! アドラさんったら! あの頃に比べれば、私だってお料理上手になったんだからね! それに、ちゃんと鬼達には言ったのよ。私、料理はあまり得意じゃないんですって。それなのに鬼達が、作らないとお前を喰ってやるって脅してくるから、仕方なく……」

「…………」

Re: 〜闇の系譜〜(外伝) ( No.137 )
日時: 2017/10/26 09:30
名前: 銀竹 ◆4K2rIREHbE (ID: LdHPPNYW)


 結局、ファフリの活躍により、鬼ヶ島の鬼達は全滅していたようでした。
大扉を開けると、腹痛に苦しんだと思われる鬼達と屍が、累々と積み重なっていたのです。
桃太郎たちは、囚われていた村娘達を解放し、ついでに、鬼達が盗んだ金銀財宝も舟に乗せられるだけ乗せると、無事に鬼ヶ島から脱出しました。

 村娘達をそれぞれの村に送り届けた後は、桃太郎たちも、自分達の故郷に帰ることにしました。

 ユーリッドとアドラは、わざわざ野生に帰る必要もないだろうということで、一緒にノーレント村のファフリの家に住むことにしました。
ファフリは、実はノーレント村の村長の娘だったらしく、その後、二匹は大変豊かで幸せな毎日を送ったそうです。

 ルーフェンは、ファフリと共に暮らしたいと言いつつ、何故か桃太郎の家に着いてきました。

 桃太郎が、見事鬼退治を成し遂げたという噂は、あっという間に広まり、村に戻る頃には、桃太郎は立派な有名人となっておりました。
無傷で生還した桃太郎に、おじいさんもおばあさんも、大喜び。
しかし桃太郎は、どんなに村人達に称賛されても、決して威張ることはありませんでした。

「いや、違うんです本当……。私は、捕まってた女の子達を解放しただけなので……」

 そんな桃太郎の謙遜に、村人たちはますます感嘆の息を漏らします。
それからしばらく、桃太郎は、勇敢で謙虚な英雄として、一躍時の人となったのでした。


めでたしめでたし。



………………


 珍しくギャグに走ろうと思った結果がこれだーい(笑)
なんか、下らない上に、汚ならしい話になってしまってすみません(^o^;)
外伝ではギャグ要員になりつつありますが、あのアドラさんに、「脛毛をむしるんだ」とか言わせて、銀竹、誰かに暗殺されそうw

 前回のパロディもの、赤ずきんが思いの外人気だったので、桃太郎も書いてみたのですが、本編の雰囲気をぶち壊すにもほどがありますね(笑)
まあミストリア編はもう完結したし、いっか!(*´∀`)

 最後は、「ファフリの料理がひどすぎて、鬼が全員ぶっ倒れました」って言いふらすのを躊躇った結果、トワさんが謙虚な英雄扱いされちゃったんですね。
実際トワさんはなにもしてないので、謙遜でもなんでもないんですけど(笑)

 ファフリの料理の腕が壊滅的なのは、外伝の別の話でも出してますが、その設定がどんどんエスカレートして、ファフリは悪魔(の料理)召喚師ということになっていますw
本編にはほとんど関係ない設定ではありますが(^。^;)

 読んでくださった方、ありがとうございました!
色々すみませんでした!