複雑・ファジー小説
- Re: 〜闇の系譜〜(外伝) ( No.94 )
- 日時: 2015/06/03 23:29
- 名前: 狐 ◆4K2rIREHbE (ID: n1enhNEv)
『赤ずきん』
昔々、あるところに、働き者のトワリスという女の子がいました。
彼女は、赤いビロードの頭巾がとても似合っていたので、皆から『赤ずきん』と呼ばれていました。
そんなある日の事、アドラ母さんは、赤ずきんを呼んで、こう言いました。
「赤ずきん、私は兵団の緊急会議に召集されてしまったから、代わりに病気のおばあさんのところへお見舞いに行ってくれ。お前が行けば、きっとおばあさんも喜ぶだろうから」
「ああ、分かったよ」
「よし。それならほら、このケーキと葡萄酒を持って行くがいい」
アドラ母さんは、赤ずきんにケーキと葡萄酒の入った籠を渡して、付け加えました。
「それと、森では狼に注意するんだぞ。話しかけられても、無視するんだ。分かったか?」
「子供じゃあるまいし、大丈夫だよ。任せて」
赤ずきんは、アドラ母さんを心配させないように微笑んで、早速出掛けることにしました。
おばあさんの家は、深い森の中にありました。
道中、魔物の群れに襲われたりもしましたが、赤ずきんはお見舞いの品が入った籠を死守しました。
赤ずきんは、すごく強かったのです。
それから、しばらくして。
背後から、軽薄そうな声がしました。
「こんにちは、可愛いお嬢さん。俺、狼のルーフェン。君の名前は?」
「…………」
赤ずきんは、無視して歩き続けました。
しかし、ルーフェンと名乗った狼は、諦めることなく追ってきます。
仕方なく振り返ると、狼はにこりと笑いました。
白銀の毛をもった、綺麗な狼です。
赤ずきんは、胡散臭そうに目を細めました。
「……貴方に名前を教える義理はありません」
それでは、とまた前に進もうとすると、狼が赤ずきんの手を掴みました。
「つれないなぁ。ねえ、そんなに急いでどこ行くの?」
「それも、教える義理はありませんので。……というか、手、離してください」
「この先にあるおばあさんの家に行くのかな?」
狼の言葉に、赤ずきんは目を見開きました。
図星だったからです。
狼は、くすくすと笑いました。
「まあ、この先にはそのおばあさんの家くらいしかないしね。なんとなく想像はつくよ」
「…………」
赤ずきんは、狼を軽く睨み付けました。
しかし、狼は全く動じません。
「それで? なんでおばあさんのところに行くの?」
「……どうしてそんなに知りたがるんですか?」
「ただの興味本意ってやつだけど?」
赤ずきんは、はぁと溜め息をつきました。
こうなったら、諦めて事情を話した方が早そうです。
いざとなったら、この狼も殴って昏倒させてしまえばいい。
そう思って、赤ずきんは口を開きました。
「……おばあさんが病気なので、お見舞いに行くんです」
「あらら、そりゃあ大変だ。じゃあ、果物がすぐそこの林に生ってるから、ついでに持っていってあげれば?」
「果物?」
今まで面倒そうな表情しかしていなかった赤ずきんが、初めて話に乗ってきました。
「そう、果物。病気の時は、栄養をとらないと駄目だろう?」
「それは……そうですね」
赤ずきんの様子に、狼は心の中でにやりと笑いました。
(……この子が林に行っている間、先回りしておばあさんを食べてしまおう)
そう、狼の目的は、おばあさんを食べてしまうことだったのです。
しかも、そのあとおばあさんの家を訪ねてきた赤ずきんも、食べようと考えていました。
しかし、赤ずきんは、ふと顔を上げて言いました。
「ちなみに、その果物ってなんですか?」
「え?」
突然の問いに、狼は少し戸惑いました。
赤ずきんは、もう林に行く気だと思い込んでいたからです。
「えーっと……コルの実、だったかな」
「あ、じゃあ結構です」
あっさりと否定した赤ずきんに、狼は固まりました。
「コルの実は確かに栄養がありますけど、果実が少し固いので高齢の方には向かないかと」
「…………」
「あ、でも教えてくれて、ありがとうございました。本当に心配して下さってたんですね。森に棲む狼はそこまで悪い狼じゃないって、皆にも言っておきます。それでは——」
「いや、ちょっ、ちょーっと待った」
手を振り払って歩いていこうとした赤ずきんに、狼は慌てて声をかけました。
「……まだ何か?」
怪訝そうに振り返った赤ずきんに、狼は焦りました。
「ほら、折角森に来たのだし、周りを散歩してから行きなよ。花は綺麗だし、小鳥も可憐な声で歌っているよ」
「はあ? 貴方、話聞いてましたか? 私は急いでるんです。花も小鳥も素敵ですけど、今はおばあさん優先ですから」
「えーっ、でもちょっとくらい——」
「しつこいっ!」
「——いだぁっ!」
なんと意思の強い赤ずきんでしょう。
執拗に追ってきた狼に拳骨を一発お見舞いすると、すたすたと歩いていってしまいました。
その後、赤ずきんは無事におばあさんの家に到着し、お見舞いの品も届けることができました。
もともと病状がひどくなかったこともあり、おばあさんは回復して、数日後にはすっかり元気になりました。
おしまい。
ルーフェン「いや、おしまいって……これ駄目でしょ。全体的に駄目でしょ。ちょっとトワちゃーん! 赤ずきんだよ? もっと可愛い赤ずきんやってよー」
トワリス「……悪かったですね、可愛くなくて」
ルーフェン「本当だよ。もっとこう、狼を怖がるとかさー。そもそも初っぱなから『魔物の群れに襲われたりもしましたが、死守しました☆』っておかしいからね? 赤ずきん怖いから、強すぎるから」
トワリス「う、うるさいな……いいじゃないですか、ちゃんとお見舞いの品も届けたんですし」
ルーフェン「だーかーらー、届いちゃいけないんだって。ちゃんと台本読んだの?」
トワリス「失礼な、読みましたよ。ただなんか、赤ずきんがほいほい狼の言うこと聞いちゃうから、良くないと思って……」
ルーフェン「良い悪いじゃなくて、そういうお話なの。あー、やっぱり赤ずきんはファフリちゃんの方がいいって。ファフリちゃんでやろう」
トワリス「じゃ、じゃあ狼はユーリッドにしましょうよ。ユーリッドは人狼なんですし」
ルーフェン「えー、俺かわいい赤ずきんちゃん相手に狼やりたかったー」
トワリス「うるさい!」
ルーフェン「いでぇっ!」
アドラ「…………」
- Re: 〜闇の系譜〜(外伝) ( No.95 )
- 日時: 2015/06/13 21:33
- 名前: 狐 ◆4K2rIREHbE (ID: O/vit.nk)
『赤ずきん』 take2
昔々、あるところに、可愛らしいファフリという女の子がいました。
彼女は、赤いビロードの頭巾がとても似合っていたので、皆から『赤ずきん』と呼ばれていました。
そんなある日の事、アドラ母さんは、赤ずきんを呼んで、こう言いました。
「赤ずきん、私は兵団の緊急会議に召集されてしまったから、代わりに病気のおばあさんのところへお見舞いに行ってきてくれ。お前が行けば、きっとおばあさんも喜ぶだろうから」
「ええ、分かったわ。お母様」
「うむ。それでは、このケーキと葡萄酒を持って行くがいい」
アドラ母さんは、ケーキと葡萄酒の入った籠を赤ずきんに渡して、付け加えました。
「良いか、道に迷うんじゃないぞ。何かあったら大声で叫ぶんだ。そしたらすぐにとんでいくから。ああ、あと森では狼に用心するんだ。狼は基本悪いやつだからな。話しかけられても無視しろ」
「ふふ、心配性なんだから。大丈夫よ!」
赤ずきんは、不安げなアドラ母さんに微笑みかけると、元気よく家を出ました。
おばあさんの家は、深い森の中にありました。
しかし、その日は天気がよく、森の中も明るかったので、赤ずきんは鼻唄を歌いながら歩いていました。
すると、そこへ茶色い毛の狼が現れたのです。
「よっ、俺、ユーリッドって言うんだ。君は?」
狼は、にこにこしながら赤ずきんに話しかけました。
赤ずきんは、アドラ母さんに言われた事を思い出しました。
でも、もともと狼は好きだったし、こんなに笑顔の狼が悪い動物には見えませんでした。
「私はファフリよ。こんにちは、ユーリッド」
赤ずきんが返事をしてくれたので、狼は嬉しくなりました。
「なあ、ファフリ。今からどこへ行くんだ?」
「えっとね、病気のおばあ様のお家に行くの。おばあ様、最近すっかり元気をなくしてしまったから……お見舞いに行くんだ」
赤ずきんは、少し悲しげに言いました。
「そっか……おばあさんの病気は、そんなに悪いのか?」
「ううん、重い病気ってわけではないのよ。お医者様に行けば、すぐ治るみたい。でも、おばあ様は腰も弱いから遠くへは行けなくて、家から出られないの。私じゃおばあ様を担げないし……」
狼は、そんな赤ずきんがだんだん可哀想になってきました。
最初は、赤ずきんを騙して、おばあさん共々食べてしまおうと企んでいたのですが、そんな気分ではなくなってしまいました。
「よし! ちょっと待ってて!」
「え? う、うん」
狼は、赤ずきんを残して、勢いよく走り出しました。
そして、近くの林に生っているコルの実をいくつか採ると、すぐに赤ずきんの元に戻ってきました。
「これ、ちょっと固いけど栄養のある果物なんだ! 握り潰して果汁にしたら、おばあさんも飲みやすいんじゃないかと思って」
「うわぁ、ありがとう! 優しいのね」
嬉しそうに笑った赤ずきんに、狼もつられて笑いました。
「ほら、貸せよ。荷物持つから」
「いいの? 結構重いよ?」
「大丈夫! 俺、力には自信あるんだ!」
狼は、自慢げに力こぶを作って見せると、赤ずきんの持っていたお見舞いの品を、おばあさんの家まで持っていってあげました。
おばあさんの家に到着して、お見舞いの品を届けた後。
狼は、おばあさんをお医者様のところまで背負って行きました。
しっかりとした治療を受けられたおばあさんは、あっという間に元気になりました。
それ以来、赤ずきんと狼はすっかり仲良くなり、毎日のように森で遊ぶようになりましたとさ。
おしまい。
ルーフェン「…………」
ユーリッド「結構楽しかったな!」
ファフリ「うん、そうだね」
ルーフェン「……おーい、そこの狼。赤ずきんちゃんに滅法弱いのやめてくれる? なんなの、この、ただのほのぼの話」
ユーリッド「別にいいじゃないか。終わりよければ全て良し、だ」
ルーフェン「いや、よくないからね? 原作無視ってどういうことなの?」
ファフリ「ねえねえ、それよりユーリッド。握り潰して果汁にすればって言ってたけど、ユーリッド、コルの実を握り潰せるの?」
ユーリッド「おお、できるぞ。ほら」
──ブシュッ
ファフリ「わぁっ、すごい」
ユーリッド「へへっ、そうか?」
ルーフェン「……駄目だ、こりゃ」
トワリス「まあ別にいいんじゃないですか?」
アドラ(…………)