複雑・ファジー小説

Re: 夢みる少女は、黒の階段の上を歩く。 ( No.1 )
日時: 2014/04/28 21:38
名前: ハル ◆oEryf/uxzI (ID: ouuVQhrA)

__彼女に、どうしようもないほどの強さを感じたのは、いつだっただろう。
  日本刀のようにしなやかで。切れ味が良くて。
  よくわからないけど、そんな強さには、もう二度と出逢えない気が、する。__



Stair_1 ハイグレ。


「あの子も、女王蜂にハイグレされちゃったわけ?
 強いな。女王さま」


帰りの電車の中。
がたん。がたん。がたん。
鋭い口調で話す咲紀(さき)。
色素の薄い、茶色い髪と瞳。
ポニーテールに結わった髪が、ふわふわ揺れる。
外はもう、闇が押し寄せて、居る。
日は長くはなってきたけど、
日が沈むと、急に寒さが。増す。
色素の薄い髪が、さらさらと揺れて。
少しばかりの光を電車の中へと、集めて。
乱反射を、起こす。


私たちは、私たちだけの秘密の言葉を交わす。
なぜなら、ほかの子たちにばれると、私たちも仲間外れにされてしまうから。

女王蜂は、私と同じクラスの黒沼 愛花(くろぬま あいか)の事。
ハイグレとは、洗脳の事だ。


……ようするに、あの子は黒沼さんに洗脳されてしまった。という意味だ。


黒沼さんは、私のクラスのいじめの主犯格。
私のクラスでは、彼女が言う事が、ルールだ。
女王さま気取りの、お嬢様。


エスカレーター式の中高一貫。
私立のここらでは有名なお嬢様学校。
中学2年も3学期に入り、そろそろクラス替え。
女王さまの機嫌を損ねないように。
当たり障りなく。過ごしてきたつもりだったのに。
とうとう、私たちのグループにも、矛先がきた。



なんかさ、あの子ってうざくない?
喋ってる声聞いてるだけで、イライラするんだよねー。
みんな、そう想わない……?



あ。愛華もそう思ってた?
わたしたちも、想ってた。うざいよね。
あの子、うざい。消えてほしい。



女王さまのルールは、みんなのルールだ。
従わなければ、いじめのターゲットは、自分。
嗚呼。みんな、なんで。そんなに大きな声で話すのかな。
陰湿だ。女の子だけの、暗黙のルール。
私には、良く解らない。
でも、空気を読めって言葉はあんまり好きじゃない。
暗黙のルールを守るってことは、正当防衛だと、想う。

そして、昨日とうとう女王さまは、
私のグループにまで、攻撃をはじめた。
ぶんぶんぶんぶんぶんぶん。
翅音が、やけにうるさい。
耳障りだ。そして、働き蜂は女王さまに
生温かい、はちみつを運び続ける。
甘い甘い、におい。そんな匂いに誘われて。
クラスの中で、女王さまは憧れの的。
本当は、そんな匂いはしないはずなのに。
やけに、クラスの中では息を止めていたくなる。
存在を、消していたい。
自分が、息を吐く音さえも耳障りだ。



だから、帰り道。咲紀をいる時間は、とても安心する。
秘密の言葉を使えば、一目を気にする必要も無い。



やっぱり、沙紀って美人だよな。
剣道をやっているせいか、姿勢が正しい。
武道をやっているのに、外人っぽい顔立ち。
そのギャップが、好きだ。
彼女と居る時は、なぜだか。
心が温まるのだ。ぽかぽかと。
まるで。日だまりの中に居るみたいな。



咲紀は中学1年の時、女王さまと同じクラスだった。
咲紀は、目立つが故にターゲットにされた。
でも、全然泣かなかった。
たとえ、教科書に落書きされても。
靴を隠されても。グループからハブられても。



何かに従うよりは、自分を貫くのが好きなの。



凜とした表情で、淡々と話す。
これって、やっぱり武道の精神なのかな。
そんな難しい言葉を、あっさりと言う咲紀が好きだ。




1週間後。
始まりは、突然だった。
ぶんぶんぶんぶんぶんぶん。


「あのさ、吹奏楽部のあの子ってうざくね?」


え、それって。わたしの事?

ぶんぶんぶんぶんぶんぶん。
うん。うざいよね。声とかさ。
とりあえずシカトでもしとく?
もっと、ひどい事、やっちゃう?



もっと。ひどい事ってなんなんだ。
解らない。怖い怖い怖い。
どうしよう。どうしよう。
頭の中で、思考がぐるぐるぐる。



キンコン、カンコン。
終わりを鐘が、鳴る。
鮮やかなメロディーが、わたしのココロの中の。
鼓膜を、揺らす。嗚呼。はやく。逃げなくちゃ。
急いで、この教室から、早く……!
女王さまに、洗脳される。まえに、


「ちょっと。さなえ。話しあるんだけど」


やばい。タイミング悪い。
愛華さまが、話しかけて来ちゃったよ。


トイレまで、来てくれるかな。
みんなで、待ってるから。
ね?


ぞくぞくぞくぞく。
強制されるかのように、トイレまで連れて行かれる。
いったい。どんなゲームが初まる、の……?


「あのさー。トイレの水に顔付けてくんない?」


あ。そんな。汚いじゃん。
無理だよ。絶対、無理だよ?


ほら。はやくしろ、っつってんだよ。
聞こえてるよねー?耳ついてんでしょ。


どうしようどうしようどうしよう。
誰か、だれか。助け、て……


どたん。
トイレのドアが開く音がした。


「あたしのさなえにそんな事したら、
 絶対許さないからね……?」


咲紀だ。竹刀を持っている。
じゃあ、試合でも始めますか。
みんな耳あるから、ちゃーんと聞こえてますよね?
暴力も、正当防衛ですから。







じゃあ、試合始めますね。
咲紀は、一礼をして、竹刀を抜いた。

黙ってるだけが、正当防衛だと思った自分を、
意図も、容易くひっくり返してくれた彼女に。
どうしようもない強さを感じた、瞬間。


                   End.