複雑・ファジー小説

Re: Это убивает【5/10最新話更新】 ( No.103 )
日時: 2014/05/14 21:52
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: 13dr2FCK)

twentythreestory—Truth revealed—



今の季節には珍しく、ひんやりとした風が肌を伝う。
昼とは全然違う、夜なりの表情を表しているサクラニワ公園。
そこにはやはり、斗澤と大形がいた。
斗澤はなんだか浮かない顔をしていて、大形は真面目くさくぴしっと姿勢よく座っていた。
それを、遠くから見る凪と嵜。
凪はここへ来てめんどくさそうな顔をした。

「話すとはいえ、やなメンツだなオイ」

「だねぇ」

うんざりしたように、嵜が返した。
するとふと思い出したように、凪にこう言った。

「そういえば。一ノ宮の後輩くんが、何者かに襲われて意識不明だって。出血多量でもう助かる見込みないって、テレビでやってた」

それを聞いた凪は途端に背筋に何かが伝うような感覚を味わった。
すぅっと、ひんやりとした風が抜けたような。
ひやり、と汗が頬を伝う。

「………………やっぱり、夢は現実だったのか」

そう呟くと、2人は気配を消し歩を進めた。




「今回の犯人絶対例の殺人鬼だろうな」

ぽつりと零す斗澤。
その言葉に大形は反応した。

「例の…………?」

「お前はまだ入ってない頃だったから、知らねぇのも当然か。十数年前、世間を賑わした殺人鬼がいてな」

大形の胸の中を察したのか、斗澤は話始めた。

「残虐な殺人ばっか起こしててな…………不特定多数の人間が、その殺人鬼によって命を落とした。一部地域じゃ収まらず、全国にまで広がった。噂じゃ、大手渚グループ夫妻を殺したのも、そいつなんじゃねぇかって、囁かれてんだ」

渚グループ、と言う言葉を聞き、大形もぽつりぽつりと話始める。

「渚グループ夫妻殺人事件のことですよね。当時総帥だった渚直太郎氏とその妻、渚撫子夫人が殺された、世間を恐怖に陥れた凄惨な事件。お2人にはまだ幼い子供がいた…………でしたっけ」

「そうだ。犯人は未だ風の中。捉えることもできないし、手掛かりも見つかりやしねえ。しかもその夫妻の子供は行方不明と来たもんだ。従者たちは『関わらないで欲しい』の一点張り。まあ色々と思い出しちまうンだろうな」

「その通り。関わらないで欲しかったのが本音だ」

斗澤が話終えると、突如第三者の声が聞こえた。

「行方不明ってのもおかしな話だね」

今度は先程の声と比べて、若い女性の声。
大形がさっと弓を構え、声のした方に矢を放つ。
すると矢はぴたりと止まったかと思うと、ありえない速さでこちらへ飛んできた。
斗澤と大形はなんとか交わしつつ、声の主が出てくるのを待った。
すると2人は驚きの顔を浮かべた。

いつもとなんら変わりしない表情で、凪と嵜が『それぞれの武器を持ってして』こちらへ向かってきたのだ。

流石に何事かと狼狽える斗澤。
慌てて銃を構えるが、凪が手で制止した。

「別に殺したりしねぇよ。罪のない一般人を襲うことなんてねぇからな」

そう淡々とつぶやくと、はっとしたように斗澤は気付く。

「罪のない一般人は襲わない……………?まさかお前ら—————」

「そ、『殺人鬼を殺す殺人鬼』ってやつ。今更気づいたのかよ」

事も無げにさらりと正体を明かす。
凪は続けてこう言った。

「今日はお前らに、『本当のこと』を話しとこうと思ってな。コレはその証明のためだ」

さっぱりついていけず、ハテナマークが頭に浮かぶ斗澤と大形。
それを無視して、話始めた。

「俺らは元々、渚グループ夫妻の子供…………息子と娘だった。しかし、ある日を境に俺らは今までの暮らしが一変した。そう、渚グループ夫妻殺人事件だ。俺らは、また夫妻のように殺されるのではないかと思われ、安斎を抜けた廻間という者に引き取られた。そして身分を隠し生活してきた。で、だ。なんで俺らが殺人鬼を殺す殺人鬼をしてるかってーと、簡単な話。両親を殺害した殺人鬼を見つけ、殺すためだ。だから片っ端から殺人鬼を虱潰しのようにプッ殺してる、って訳をただ、ここまでならまだいい。生活していくうちに、1つ疑問が生じた。なんで『事件当日』のことを覚えていないのか、だ」

2人とりあえず頷き、メモを取りながら聞いていた。
そして凪が少し考えた後にまた話始めた。

「このことは嵜でも気付いていた。そこが妙に引っかかってたんだ。んで色々あって、ついにその原因がわかった。それらの記憶は全部、廻間が『催眠術で』封じてた過去だった。恐らく廻間は、引き摺らないように封じたんだろうが、それには大きな代償として、俺らの表情が一切なくなる、ということを知らずに仕出かしちまった。だが廻間はこれ幸いとして、そのまんまにしといた。時が進むにつれその封印も緩やかに解けて、俺らは昔より感受性が豊かになった。そして徐々に事件当日のことも思い出してった。思い出すってのは体力を大きく消耗するもんで、全部思い出したら俺は吐血し、嵜は激しい頭痛に襲われた。その時だよ、事件当時の光景が浮かんだのは」

「なん………だったんですか?」

大形が深呼吸をして、間を一つ明けそう聞いた。
凪はまた淡々と言い放った。

「血まみれの部屋、三日月のような笑み、握られていた凶器。それが映った」

すると斗澤は、ズキリと頭が痛んだ。

「………………?」

思い出してはいけないような過去、と頭で何かが斗澤に『向かって』そういった気がした。
斗澤は頭を振り、頭痛を打ち消した。

「………………格好は信じたくなかった。確かにそいつは——————





「『僕』だった、そうだよね凪」


凪の話を遮るように、『廻間』が凪を見てそう言い放った。