複雑・ファジー小説
- Re: Это убивает【5/31本編更新】 ( No.111 )
- 日時: 2014/06/04 22:59
- 名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: CymMgkXO)
twentyfivestory—Fear of hypnotism—
「(渚グループ専属の…………警官だと?)」
斗澤は聞こえてくる声や言葉に疑問を浮かべる。
それにしても流れてくる映像は一体なんなんだ。
少なくとも斗澤の覚えている限り、『ない出来事』だったと思われる。
しかし、鮮明に映るものや声から、忘れていた、いや『封じられていた』記憶であることが、それとなく解せた。
『渚総帥から直々に指名だそうだ。光栄なことじゃないか
『確かに、光栄なことですが、何故自分を?』
『さあな。だが渚グループ総帥の指名となっちゃ、断れん。まあ、くれぐれも粗相のないようにな。そうそう、先日、御子様を無事に出産されたそうだな』
『そりゃめでたい話で。それでその話はさておいて。行き先とかはどうなってるので?』
『ここに記してある。そのとおりにいけ。ついたら氏名を門前で言うようにな』
『了解しました』
———————プツッ。
そこで記憶は途切れた。
気が付けば息が荒くなっていたようで、凪に顔を覗き込まれる。
斗澤の顔には明らかに疲労の色が滲みでている。
「大丈夫かお前」
凪が不思議そうに斗澤に言う。
斗澤は、返事こそしないものの、大丈夫だというかぶりを見せた。
そして、くっと真正面を見ると、大形とハザマの戦いが目に写った。
大形には少し焦りの表情が混じっていた。
一方ハザマはハザマで、疲れるどころか、ますます楽しんでいるように思えた。
「しぶといですね…………ッ」
大形は弓を構えるが、その腕は既に疲労こんばいと言ったところで、僅かながら震えていた。
なんとか矢を放つが、ひょろひょろと飛んでいったので、すぐにハザマのナイフで折られてしまう。
矢筒にある矢をとろうとすると、もう残り一本しか残っていなかった。
途端に絶望の色に染まる大形。
しかし躊躇いなく、大形は最後の一本を抜き取り、矢を構える。
ハザマは気にすることなく、逆に呑気に髪の毛をいじっている。
「(当たれっ!!)」
大形は今までより集中を高め、これ程までもないスピードの矢を放つ。
当たるか、と思ったその矢先だった。
「こんのアホんだらああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
何かの足が飛んで来るなり、ハザマを蹴り飛ばした。
「どぅふっ!?」
蹴り飛ばされたあまり、変な声を出すハザマ。
そして、その最後の矢は飛んできた足の主の手によって、見事キャッチされた。す砂埃が少したった後、晴れると、そこには予想だになしない人物がいた。
先程の叫び声で目が覚めたのか、嵜はその相手を見るなり駆け寄った。
「あ、華蓮!」
そう、引きこもりの少年、『村雲華蓮』である。
「外出て大丈夫?」
「ちょっと悪い夢を見てね。嫌な予感がして来たんだ」
村雲が至極普通のように話す。
「それにしても良かった。もしあの夢が本当だったらお前死んでたからなあ」
ぽつりと村雲が呟く。
その言葉に妙な引っ掛かりを感じる凪と嵜。
村雲はその沈黙した空気を壊すように、話始めた。
「十数年前から指名手配されている殺人鬼は、アンタだな。『安齋ハザマ』。渚グループ総帥の公の長男であり、PSYCHOPATH。そして、渚グループ夫妻殺人事件の犯人もアンタだろ。多方、殺人衝動のターゲットを探してて、丁度いい人材だったんだろうな。殺せば、渚グループの内部のゴタゴタも顕になる、って点も踏んでな。しかし顕になるどころか、うまい具合に隠されたっつーわけか。」
ハザマはその話を聞きパチパチと拍手した。
「ん、殆ど当たり。まあ内部のゴタゴタってのは、他ならぬ廻間の事なんだけどサ。うまい具合に隠すもんだから腹たってきちゃった★」
「しかも渚グループ専属の警官である斗澤に、その腹いせとして殺人衝動を向けた。だが、死なずに済んでしまったって訳か」
その事を聞き、どういう事だと言うように体をそちらに向ける。
するとハザマがその回答をした。
「『廻間』が、これ以上過去を引っ掻き回さず、そしてずるずる引き摺らないように全て、『催眠術』で記憶を封じたのサ。色々と面倒な話だしね。多分渚グループに関わる記憶は全て封じたんだろうね」
その返答に斗澤は唖然とした。
催眠術で記憶を封じるってできんのかよ。
いや、それ以前に隠す必要なんてあったのか?
斗澤はただ呆然とするしかなかった。
ハザマは大形をちらりとみやり、
「まあ一概に、『封じてない人はいない』とも言えないけどサ」
と、誰にも聞こえないように呟いた。
かと思ったらハザマはその場でくるりと回り、
「それじゃ、僕はおさらばさせてもらうねー。じゃあ、また『下弦の月』の日に会おうよ」
と消えるように去っていった。
当然大形は、すぐに立ち上がり追いかけていった。
まちなさい!という声と共に。
残されたメンバーは、それぞれ自分なりの解釈をして家路に着いた。
しかし、斗澤はただ一人、蕭然と立ち尽くしているだけであった。
何のための捜査だったのだろうと、らしくない言葉を繰り返しながら。