複雑・ファジー小説

Re: Это убивает【8/5嵜過去編更新】 ( No.132 )
日時: 2014/08/13 11:36
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: tRamSAT8)
参照: http://planetmeteos.com/index.html

twentyninestory—bloom of youth—



所変わって廻間邸。
そこにつくやいなや、凪は一ノ宮を降ろして手を引き、家へと入った。
一ノ宮の赤面はまだ治っておらず、心なしか、すこし汗ばんでいた。
中に入るとまだ明かりがついていた。
多方、まだ嵜が起きているのだろう。
というのも、廻間は自室に入ると、九時くらいにはちゃっちゃと寝てしまうので、こんな夜遅くまで起きているのは、凪を除けば嵜くらいしかいないのだ。

「ちょ、ちょっと凪!痛い!」

「静かにしろ、嵜にバレる」

喚く一ノ宮を叱責させて黙らせる。
しばらくの沈黙の後、ぴたりと凪は扉の前で止まった。
そして蹴りでその扉を開ける。
ドゴンッと言う音に、一ノ宮は少しばかり身を強ばせるが、部屋の大きさに目がいってしまう。
おそらく凪の部屋なのだろう。
妙に綺麗で少し不気味に思えるが、掃除をしているのが大抵廻間なので、綺麗すぎるのも頷ける。
しかし一ノ宮は綺麗過ぎて恐怖を覚えた。
それもそのはず、本人は廻間を知らない。
知らない人にとっては、この部屋は不気味に覚えて仕方ないだろう。
凪はベッドの上に座り、一ノ宮に適当に座れと声をかける。
床に座るのもなんだし、と思った一ノ宮は、ちょこんと凪の隣に座った。
凪は少し考え事をすると、すっくとたちあがってコーヒーもってくると言い残し、部屋を出た。
それを聞いて一ノ宮は

「私、コーヒー飲めない………」

と、消え入るような声でそう呟いた。


しばらくして凪が、コーヒーの入ったカップとミルクを乗せたトレイを持って帰ってきた。
それを見て一ノ宮は胸をなで下ろす。
トレイを机の上に載せると、

「ガムシロかミルク、どっちがいい」

と一ノ宮に声をかける。
一ノ宮はミルクで、と答え、凪はそのとおりにミルクを入れる。
二つのカップを手に持つと一ノ宮に近づき、アイスミルクティーを一ノ宮に手渡す。
それを受け取ると、凪はアイスコーヒーを少し啜りながら一ノ宮の隣に座る。
しばらくぼうっと虚空を見たあと、凪は口を開いた。

「すまんな、巻き込んじまって」

その言葉に些か引っ掛かりを感じる一ノ宮。
巻き込む、とは何のことだろうか。
そんな趣旨の質問を投げかけると、凪は言葉を選び話し始めた。

「結論から言う。俺と嵜は、お前らが追ってる『殺人鬼を殺す殺人鬼』だ」

一ノ宮はいきなりの結論にぽかんとなる。
まさかとは思ってたけど、本当にそうだったなんて。
少し間を空け、また凪が話し出す。

「……………んで、嵜と俺は双子の兄弟。そしてさっき公園でお前を殺そうとした奴は俺らの兄に当たる。親は渚グループ総帥、渚直太郎とその妻渚撫子だ。つまり本名は渚凪と渚嵜。簡単に言うとこうなる」

その言葉を聞きさらに驚く一ノ宮。
やっぱり双子の兄弟だったんだ。
というより、渚グループ?何年か前に総帥夫妻が亡くなったあの?
それがうっかり口に出ていたようで、凪がそうだ、という。

「俺らの両親は既に死んでいる。アイツに殺された」

「アイツ…………?それってまさか」

「そうだ、さっきの公園にいたアイツ——————ハザマだ」

そういってアイスコーヒーを一気に飲み干す。

「ハザマは他にも惨殺で有名な殺人鬼だ。全国でも匿名手配されている。そんな奴が、俺らの兄だなんてな……………」

ふう、と息を漏らす。
一ノ宮はしばらく考えると、ふとあの発言を思い出す。
そしてリンゴのように、顔を赤くし、凪に聞いてみた。

「あ、あのさ…………さっきの『俺の一ノ宮に手を出すな』って…………」

それを聞いて少しきょとんとなる。
しかし段々自分の言ったことを思い出したのか、凪でさえ真っ赤になる。

「あああそうだあれかああああ!!うわあ自分で言ってて恥ずかしくなってきやがった……………」

凪は火照った顔を隠すように、手で顔をおおった。
一ノ宮はその言葉は聞こえなかったようで、一人でキャーキャーいっている。



そんな微妙な空気が、部屋いっぱいに充満した。