複雑・ファジー小説

Re: Это убивает【題名の読み方判明】 ( No.72 )
日時: 2014/04/19 12:01
名前: サニ。 ◆6owQRz8NsM (ID: j4S7OPQG)

seventeenstory—Love, the police, and an informer—


怪しく光る月が照らす夜。
昼の雰囲気とは打って変わって違う、夜のサクラニワ公園。
斗澤はまだ昼と同じ場所にいた。
ゴソゴソと懐から出し銃を弄ぶ。
月明かりに照らされ、黒く鈍く光る。
そんな銃にうっとりする斗澤。
しかし、そんな時間もつかの間、とある足音によって終わりを告げる。
その顔が一気に悪くなる。
足音がした公園の入口に目を見やると、とある人影が見えた。
その姿に斗澤は目を見張った。
ロリータファッションでかため、ふわふわした雰囲気。
それに見合わないような弓。
そして、可愛らしい顔つきの………………男。
斗澤は心底驚いた。


その人物は、署が公認する正義の警察官、大形愛(オオガタアイ)だったからだ。


その活躍ぶりは署では当たり前のように広まっている。
世界レベルの弓の腕前。
人並み外れた視力。
そして、本人がいう『愛の戦士』。
署に入った時から瞬く間に噂は広まり、彼はもはやいろんな意味での人気者だ。
その彼がなぜここにいるのだろうか。
大形は斗澤に気付くと、ニコリと微笑み一礼した。
「これは斗澤刑事、お晩です。」
その言葉を聞かず、斗澤はこう言った。
「なんでお前がここにいる」
その発言に少しきょとんとした大形。
するとクスっと笑い返事をした。
「何って、捜査みたいなものですよ。例の殺人鬼を殺す殺人鬼の、ね。」
「はぁ?それは俺で十分だ。」
「じゃあその正体分かってるんですか?」
「そ、そりゃ、まあ…………その、なんだ、なんというか」
「要するに分かってないんですね」
その言葉に流石にカチンとくる斗澤。
「ぁんだ?テメェは分かってんのかァ?」
イライラしながらそう聞くと、もちろん、と答える大形。
これには目の色を変え、質問を矢継ぎ早に投げる。
「どんなやつだ?」
「調べによると、未成年です。いや、成年になるかどうかってトコですか」
「はぁーん。で、尻尾はつかめたのか?」
「まあ、それなりに。でもここから先は言えません。捜査の一環ですので」
そう切ると、ケッと吐く斗澤。
「上層部もしけてんなァ」
「そう言わないでください。仕方ないんです。まあ、これをこっそり盗み聞きする人もどうかと思いますけど、ね?」
最後の部分だけ、やけに声が大きくなる。
まるで誰かに話しかけているようだった。
斗澤はハッとなる。
そして、手に持ってた銃で、『人の気配がする』茂みをサイレントを付けて一撃ち。
ガサッと茂みが動く。
明らかに銃で撃たれただけでは動くモノではなかった。
その後、その茂みから人が出る。
斗澤は銃を構えなおす。
大形も弓の構えを取る。

「誰かな。夜の散歩の邪魔をするのは。1人?いや2人だね」

出てきたのは、いつもの白い法衣を身にまとった廻間だった。
はたからみれば、まさに不審者だ。
紙で素顔を隠し、腕には重々しく繋がれた鎖。
そして裸足という格好だった。
これを不審者と呼ばずして、なんと呼ぶか。
2人は流石にその格好に拍子抜けしていたが、はっとすぐ我に戻る。
「夜の散歩?不審者が何言ってんだ。署まできてもらおうか」
銃を構えたまま、廻間に近付く斗澤。
その様子に廻間はため息をついた。
「人を見かけで判断するって良くないと思うよ」

そういうと、廻間は斗澤の足を払った。

いきなりの攻撃に斗澤は足がもつれ、たまらず転ぶ。
「いッ…………!」
攻撃をモロに喰らい、痛みがじんじんと伝わる。
「銃を構えたまんまさ、来られたらそりゃ誰も警戒するって。考えなよ」
廻間の白い紙越しに斗澤に冷たい視線を浴びせる。
そして廻間は首を回し、大形に顔を向ける。
「邪魔しないでよ。ホントに。折角いい気分でルンルンスキップしてたのにさぁ。声掛けるとかないわ。台無しだ」
思ったことをそのまま口に出す廻間。
そして、斗澤をケリで気絶させる。
その様子に改めて大形は弓を構えた。
「……………貴方に、愛を」
そうつぶやき、矢を放った。
廻間は首を横に振り、こうつぶやいた。

「はぁ。いっとくけど、今すごく機嫌が悪いんだ。手加減できないからね?」

次の瞬間、その場所に廻間はいなかった。
それに驚く大形。
「なんで?ど、どうして!?」
「いったでしょ?『手加減できない』ってさあ」
耳元で突如声がして後ろを振り向く。
しかしそこには誰もいなかった。
「な!?」
慌てて周囲を見渡す。
前を振り向いたその時、白い紙がこちらを見ていた。
「ひッ」
声にならない悲鳴が上がる。
白い紙は大形の腕を掴み、一気に力を入れた。
ビキビキと骨のこすれるような音が鳴る。
「んなっ!!」
廻間は苦しむ大形を見て、さらに力を入れる。
明らかに怒気が混じっている。
絞り出すような声で、大形はいった。
「な、にもの…………ッ!」
「……………ただの情報屋だよ。あと正義の警察官って、なんか腹立つ」
そう呟いて、握り締めていた腕を解放する。
その腕をかばうように、もう一方の手で抑える大形。
息を荒くしながら、廻間に何故?と問うた。
廻間はため息をつきながら答えた。

「この世には正義の味方なんていない。正義なんてものはただの身を守るための盾。だからこの世に正義の警察官なんて、存在しない。正義は架空のものだ。正義の警察官って名乗ってるのは単なる己の欲望を満たしてるに過ぎないよ。そもそも、警察官が正義なんて言葉は使っちゃいけない。それだと、警察官がこの世の正義の全てになるだろ?だから元から正義の警察官なんていないのさ。正義のヒーローなんてものは、最初っからいない。」

その言葉が大形を突き刺した。

「正義って振りかざしてるやつは、単なる小さい人間にしか過ぎない。さっさとそれ使うのやめな。じゃ、おやすみ」

止めの一言を言い放ち、廻間は後にする。
「…………………」
とりあえず大形は気絶した斗澤を起こし、公園で一夜を明かすことにした。


廻間の言葉を気にしながら。