複雑・ファジー小説

Re: 朱は天を染めて ( No.1 )
日時: 2014/03/03 13:12
名前: Frill (ID: LTX6Bi5r)

 第壱話 大江山の朱天童子


 辺り一面に焚かれた篝火が煌々と夜闇を照らす。月の光が合わさり幻想的な中で楽器の音や歌に合わせ女や男が華麗な着物で優雅に艶やかに踊っていた。

 その饗宴を冷めた目で見ながら巨大な盃で酒を飲み干す女が溜息を一つ吐く。

 その女の姿は人では無かった。無造作に撫でつけられた真っ赤な髪の頭部に赤い二本の角が天を向いていた。

 その女は『鬼』と呼ばれる異形の者だった。容姿を見れば人間とそれほど変わりは無く、絶世の美女と言える程の器だ。

 肉付きの良い引き締まった魅力的な肢体。天を向くようにたわわに実った果実の様な豊満な乳房。鋭く吊り上った紅い瞳は何処か憂いを帯びていて扇情的な桃色の唇は男を誘うかのようだ。

 
 その血のような赤い双眸がギラリと輝きを放つ。


 「つまらん、京の都一番の踊り手と言うから招いてみればこれは何だ?俺様に童の遊戯を見せるつもりか」

 鬼の女は艶のある声でそう言い捨てると酌をしている隣の人間の女から酒の入ったひょうたんを奪うと一気に仰いだ。

 「おい、人間共、もっとマシな踊りはできんのか。俺様を満足させる踊りを見せろ」

 舞を舞う一団の纏め役らしき男が鬼の女の前に歩み出て膝を着き頭を垂れる。

 「朱天童子様、我等一座の秘蔵の舞は御気に召しませんでしたか?」

 朱天童子と呼ばれた鬼の女はフンッと鼻であしらう。

 「俺様の鼻は誤魔化せんぞ。いい加減にお前達の本性を曝したらどうだ?随分前から殺気がプンプン匂ってるんだがな」

 鬼の前に膝を着く男は顔色を変えず淡々と語る。

 「・・・では次に舞う舞は貴女の御気に召すでしょう」

 その瞬間、舞を舞う一団が隠し持っていた武器を手にし鬼に襲い掛かる。

 朱天童子はニヤリと笑いその唇から鋭い牙が覗いた。