複雑・ファジー小説
- Re: 朱は天を染めて ( No.11 )
- 日時: 2014/03/03 13:20
- 名前: Frill (ID: LTX6Bi5r)
第九話 源頼光御一行様
朱天童子討伐のため源頼光と渡辺綱、そして卜部季武は旅の準備をし都を出立しようとしていた。
「旅の支度にしては我々の荷物が少ないのですがこれで宜しいのですか?卜部殿」
頼光達は卜部に言われた通り必要最低限の荷物で旅の準備をした。
「はい、これで大丈夫です。必要な分の食糧、携帯品等は陰陽の技で別空間に格納してあります。もちろん鬼退治に必要な道具も揃ってます」
卜部は何もない空間から物を取り出して見せる。
「凄いね〜、陰陽術は。僕も覚えたいな〜♪」
「頼光様ならすぐに習得してしまいますよ」
そんな風に雑談しながら北西にある大江山に向かうために玄武門を通ろうとすると一人の美女が声をかけてきた。
「あんた、源頼光だよな?」
その美女はかなりの長身で180ある綱を軽くを超す。しなやかな長い黒髪とやたらと肌の露出が多い恰好をして自身の背丈より長い槍を片手で軽々と担いでいる。
恰好は破廉恥だが鋭い視線と身のこなしが只者では無いとこの場の誰もが思った。
「貴様、何者だ。無礼であるぞ」
綱は頼光を守るように立ち、腰の刀を瞬時に抜刀できるようにする。
数秒、綱と視線を交わした長身の女は手を掲げて敵意が無いことを知らせる。
「おっと、ごめんよ。前にあんた達を羅生門の鬼退治の時に見かけてね、それでつい、声をかけちまった」
綱が警戒を解くと頼光がその脇から歩み出て女の前に立つ。
「君もあの戦いに参加していたんだね」
頼光が前に立つと女は流れる様に膝を着き臣下の礼をとる。
「はい、頼光様。申し遅れました、私は碓井貞光(うすい さだみつ)と申します。先の戦いで使えるべき主を失い流浪の身となりました」
羅生門の戦い。それは鬼の大群が要塞砦、羅生門を占拠し殺戮のかぎりを尽くした。その鬼達を討伐すべく名のある武士達が戦いに挑んだ。
この戦いで多くの武士と退魔師達がその命を散らしたのだ。
貞光は己が仕える主人を失い空虚な心のままだった。一流の槍の腕を持ち容姿も良く彼女が望めば士官は引く手数多だ。
だが彼女はそれを良しとせず流浪に身を任せた。