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複雑・ファジー小説
- Re: 朱は天を染めて ( No.12 )
- 日時: 2014/03/03 13:43
- 名前: Frill (ID: LTX6Bi5r)
第十話 源頼光御一行様・後編
貞光の身の上を静かに目を閉じ聞いていた頼光は優しく微笑み語りかける。
「・・・君はその人の事が、とても大好きだったんだね」
貞光の頬には何時の間にか涙の滴が流れていた。それに気付いて慌てて涙を拭う。
その遣り取りと見ていた卜部は話を切り出すタイミングを見計らい、そっと声をかける。
「・・・そろそろ行きましょう。あまり時間を掛ける訳にはいきませんので」
卜部が促すと頼光はそれに頷き貞光に向き直る。
「僕達はこれから大江山に棲むという鬼『朱天童子』の討伐に向かうんだ」
「・・・あの噂の『朱天童子』をですか?」
頼光の言葉に驚く貞光。朱天童子の噂は貞光も知っている。あの羅生門の鬼の元々の住処である大江山を追い出し、居座ったという話もある。他にも様々な噂があるが恐ろしい化け物だということは間違いない。
そんな化け物をたった三人で倒しに行くというのだ。普通なら正気かと疑うが源頼光達ならそれも頷ける。
羅生門の戦いで誰よりも前線に立ち鬼を斬り伏せていたこの見目麗しい少女。戦の女神かと思わんばかりの苛烈で華麗で美しかった戦う姿。
かつての自分の主もそんなお方だったと貞光は懐かしく想った。
「・・・頼光様!この碓井貞光もどうか鬼退治のお供に加えてください!!この槍、必ずや貴女様のお役に立てますゆえ!!」
突然の貞光の言葉にも頼光は動じずにこやかに笑みを浮かべる。
「うん、いいよ。碓井貞光、貴殿を我が陣営に加えよう」
頼光の返事に打ち震える貞光。
「頼光様!・・・有り難き幸せ!!」
それを微笑ましく見守る綱と複雑そうな顔をする卜部であった。
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