複雑・ファジー小説
- Re: 朱は天を染めて ( No.18 )
- 日時: 2014/03/04 23:03
- 名前: Frill (ID: J7xzQP5I)
第十五話 老人と少女
少女には記憶が無かった。自分は何者なのかどこから来たのか、何故この場所にいるのかさえ思い出せなかった。
少女は人とは異なる姿だった。金色の髪で金色の瞳でその肌は浅黒く褐色だった。
まるで妖魔のように並外れた怪力で襲ってくる獣も盗賊も妖魔も打ち倒した。
だが訪れた人里に彼女の居場所は無かった。その容姿も人並み外れた怪力も人々にとって恐怖の対象でしかなかった。何者かも判らず化け物として扱われ怒りと憎しみが彼女を支配する。村々を襲い人を殺し食糧や物を奪う。
そんな生活を続けていた。
ある日、彼女の前に巨大な斧を担いだ老人が現れた。また自分を殺しに来た退魔師の一人だと思い、いつもの様に殺そうとしたが一撃で意識を刈り取られ、老人が住んでいる廃寺に連れてこられた。
それから奇妙な日々が始まった。老人は少女が逃げようとすると叩きのめし連れ戻した。少女が寝込みを襲ってもものともせず、老人はとても強く少女は手も足も出なかった。少女が何もしなければ害はなく、何もしてなくても食べ物をくれる老人。そうして大人しく過ごすうちにお互いに話をするようになった。
名前も無く何者か判らないこと、自分が化け物として恐れられること。老人は話を聞きそして少女に名前をくれた。かつての自分の子供の名前を。そして老人は『坂田 金時』と名乗った。
少女は不思議な既視感を感じた。失われた記憶の奥に、ずっと昔にこんな事があったような、大切なものがあったようなと。そして老人と少女は本当の祖父と孫のような絆ができた。
それから二人で村を荒らす野盗や人を襲う妖魔を一緒に退治する様になった。相変わらず少女は人に恐れられたが時には感謝もされた。それは奇妙な感覚だったが悪くはなかった。
だが老人は齢を取りすぎていた。少女と暮らす穏やかな日々は確実に時を刻んでいった。
老人は床に臥せ最後の時を待つ。
そして傍らの少女に己の身の上を静かにを語った。
