複雑・ファジー小説

Re: 朱は天を染めて ( No.22 )
日時: 2014/03/06 12:53
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: lR28MbyF)

 第十九話 深淵


 深く、暗く、光さえも届く事のない闇の中。

 赤くおぞましい肉色の壁が脈打ち、妖しく胎動する空間。

 生々しい光沢が生物の臓物ハラワタの様であり、巨大な塊が心臓の様に鼓動を放つ。

 それらが縦横無尽に血管の様な管を無数に張り巡らせている。

 ドクリ、ドクリと肉の管が蠢きこの巨大な肉塊が何かの生き物だと思わせる。
 
 それはまるで羽化を待つ蝶のサナギの様に、あるいは全てを呑込む時を待ち望む巨大な蛇の様に。


 「足りないネ」

 「足りないワ」


 その肉塊の足元に二人の可愛らしい幼女がお互いに顔を見合わせる。

 クリーム色の髪で若干髪型は違うが、顔付きがまったく同じ事から双子の様だ。だが決定的に違うのは彼女達の頭部の右と左に一本ずつ角がある事だ。

 明らかに場違いな雰囲気の少女達は何故か楽しそうに笑いながら手を取りスキップしながら唄いだす。


 「もっと、もーっと集めなきゃ、兎那ウナ♪」

 「もっと、もーっと殺さなきゃ、須狗スク♪」


 そして二人の少女は唄いながら闇の中へとその姿が溶け込む。


 「いっぱい、いーっぱいお肉を集めよう、兎那♪」

 「いっぱい、いーっぱい生き物を殺そう、須狗♪」



 誰も居なくなった禍々しい肉の空間に不気味な鼓動の音だけがいつまでも打ち鳴らされていた。