複雑・ファジー小説

Re: 朱は天を染めて ( No.23 )
日時: 2014/03/08 17:37
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: 1kYzvH1K)

 第弐十話 見定める者


 満月の明りが静けさを照らし出す、京の都。その外れに佇む御屋敷の縁側で一人の者が月を肴に酒を飲んでいた。

 男の様でいて女の様な中性的な妖しさと美しさを合わせ持つその者は盃を口に運びポツリと呟いた。

 「今宵の月は特に紅いな・・・」

 その軽やかな声も男女の区別は着き難いものだった。

 「いずれ何かが起きるな、それも大きな何かが・・・」

 後ろに控える従者が月を見てこくりと頷く。その従者も少年か少女なのか判断しかねる容姿だ。

 「お前もそう思うか?松虫まつむし

 松虫と呼ばれた従者は再びこくりと頷く。



 「おーい、まだ起きてるか?晴明せいめい!」 

 唐突に夜の静寂を打ち破る明るい男の声が屋敷にこだまする。

 そしてズカズカとまるで自分の屋敷でも在るかのように中庭にその男がやってくる。

 「おお、晴明!起きてるなら丁度良い!良い酒が手に入った、一杯付き合え!」

 どかりと縁側に『安倍 晴明(あべの せいめい)』の隣に腰を下ろすと酒瓶を向ける。

 その図々しい男を見て安倍晴明は微笑み盃を差し出す。

 「こんな夜更けにわざわざ此処に来るとは。お前も存外、暇な男だな、博雅ひろまさ

 博雅と呼ばれた男『源 博雅(みなもとの ひろまさ)は男前のその白い歯を見せて、ニカリと笑った。



 安倍晴明は都の陰陽師の中でもトップクラスの腕を持ち殿中の様々な怪異を調伏してきた。羅生門の戦いでも鬼共をその卓越した術で封滅した。鬼の頭領は惜しくも逃してしまったがその功績はとても大きく帝からも絶大の信頼を得ている。

 源博雅は源の宗家の一族で貴族の位が高いが、その温和で朗らかな性格で下々の者達にも優しく皆に好かれていた。戦いとなれば弱き者を守る剣となり最前線で戦った。


 そんな二人が怪異退治で共闘し後に親友となるのに、さして時間は掛からなかった。