複雑・ファジー小説
- Re: 朱は天を染めて ( No.25 )
- 日時: 2014/03/10 13:16
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: 0i4ZKgtH)
第弐十弐話 暗躍
薄暗い湿った洞窟。篝火の明りだけがボンヤリと洞窟内を照らす。
魔物の形を象った悪魔像に男が一心不乱に呪文を捧ぐ。
「オン ベイシャロナン ウンディバダ マカリキ ソワカ、オン ベイシャロナン ウンディバダ マカリキ ソワカ、オン ベイ・・・」
そこにどこからか飛んできた奇妙な鶏冠をした烏が髑髏の止まり木に着地し鳴き声を上げる。
男は呪文を唱えるの止め、閉じていた眼を開ける。
「やはり都に妖魔が、それも貴族人に成りすましていたか」
堀が深く口と顎に髭を蓄えた精悍な男が髭を擦り思案する。
「・・・随分とやっかいな妖魔の様だな。下手に手を出せばこちらの身が危うくなる」
だが男は気にするでもなく口元を歪に吊り上げ笑う。
「まあ、都がどうなろうが吾輩の知った事ではないからな。それよりもその妖魔を安倍晴明にけし掛けてやる事はできまいか」
『芦屋 道満(あしや どうまん)』は一人薄暗い洞窟で邪悪な笑みを浮かべていた。
何時頃から存在するのかも判らぬ朽ち果てた太古の遺跡。それは八百万の神々がその権威を振るっていた時代の遺物なのか。
その厳かな遺跡に所狭しと転がり積み上がる人間、動物、妖魔のしゃれこうべ。
それらを一面に張り巡らされた蜘蛛の糸がその痕跡すらも覆い隠している。
白色の糸に覆われた、その辛うじて玉座と思われる場所には巨大な蜘蛛の身体を持つ美女が気だるげに鎮座していた。
上半身は幽鬼の如く青白くも艶めかしい肉感的な裸身をしており、長く梳かれた金糸の髪が妖艶な雰囲気を醸し出している。
だが美女の下半身は醜悪なまでの蜘蛛の形状をしており十二の複眼がギラギラと暗い光を伴い、怖ぞましい大きな口からは無数の牙がカチカチと音を鳴らす。
「餓珠様、『蛇』に動きが有りました。いかがなさましょう」
餓珠と呼ばれた巨大な蜘蛛の美女は幾ばかより自身より小さい女郎蜘蛛の女に視線を向けると気だるそうに言葉を紡ぐ。
「・・・放って置くがよい。今はまだ、その時ではない」
その言葉を聞き頭を下げ女郎蜘蛛の女は去る。
「・・・今は、な」
土蜘蛛の女王は鋭く目を細め、小さく呟いた。