複雑・ファジー小説
- Re: 朱は天を染めて ( No.31 )
- 日時: 2014/03/09 18:06
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: 91b.B1tZ)
第弐十七話 天を焦がす者
その日、多くの者がその光景を目の当たりにした。
人が、妖しが、獣が、あらゆる生物が、この世の終わりを彷彿とさせる様な『それ』を目撃した。
突如として現れた『それ』は雲を呑み込み太陽を覆い隠した。
『それ』は、その身を怒らせ天空を荒れ狂う巨大な赤い炎の龍蛇。
見上げる者全てに己の最後の時を予感させる、それほどまでの不吉さと恐怖と自分達には理解できない領域への畏怖を感じさせた。
大江山の上空を埋め尽くす巨大な赤い龍蛇。
それを遠方から重い表情で眺めている頼光達。
ここからでも感じ取れる己の肌をチリつかせる熱気、その身を押し潰すかのような怒涛の気迫。
圧倒的な存在感。
誰もが確信する、こんな事ができるのは一人しかいない。誰かがボソリと呟いた。
「朱天童子・・・」
これ程までのプレッシャーを与えてくる存在に、これから自分達は立ち向かうのかと思い、身体の奥底から震えが湧き上がる。
「・・・凄い、これが朱天童子の力なんだね」
唯一人、頼光だけは楽しげな笑みを浮かべ額に滲んだ汗を手で拭う。
「あれが・・・朱天童子の・・・」
金時は不思議な焦燥感を感じていた。今すぐにでもこの光景を作り出した者に逢わなければ、と心が訴えかけてくる。
様々な想いを胸にした一行が見守る中、突如、眼が眩まんばかりの激しい閃光の兆しが大江山の頂上に注がれる。
そして天空を舞う赤い竜蛇が凄まじい咆哮を上げ、大江山の頂を掠める様にその巨大な身体を波打たせ、通り過ぎる。
龍蛇は後方に在る山々を貫き、更に奥の山脈群を破壊する。目の前に存在する全ての物を邪魔だと言わんばかりに薙ぎ払い、焼き尽くし、どこまでも突き進む。
遥か地平線の彼方、赤い龍蛇は一声大きく咆哮すると天へと昇り、雲の合間にその姿を消した。
その咆哮はいつまでも耳に残った。