複雑・ファジー小説

Re: 朱は天を染めて ( No.32 )
日時: 2014/03/10 00:26
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: u0Qz.mqu)

第弐十八話 天を焦がす者・後編


 それはもはや戦いでは無かった。

 それを前にしてはあらゆる術技が児戯に等しかった。

 まさに竜の咆哮、神の一撃。
 
 もはや世の理を超えたものだった。



 大江山の広場の中央、立ち尽くす瑠華。

 一体何が起きたのか。今の何だ、何をした。

 恐る恐る振り返ると、そこには御社は無く、御社どころか山が後ろ半分無くなっていた。

 更にそこから見えるのは後ろに続く山々が丁度半分、綺麗サッパリ消し飛んで無くなっていたのだ。

 文字通り『無くなっていた』。

 そして自分が立っているすぐ後側は大きく抉れて、さっきの『無くなっていた』場所へと繋がっていた。

 前を見る瑠華。

 そこには『それ』を作り出した者が無表情で此方を見ている。その血の様な紅い瞳で、静かに、揺らめき燃える赤い剣を持って。

 ショロロロと瑠華は股下を暖かい滴で濡らし、足元に染みを広げる。身体がガクガクと震え出し、呼吸が出来ない。思考が追い付かない。

 するとその者がニヤリと凶悪な顔で、笑った。

 そこで瑠華の頭は真っ暗になり、意識が途絶えた。





 



 「・・・で、どうしてこういう事になったのじゃ?」

 蒼髪の一本角で青い薄衣を着た小柄な美少女、幽魔ユマが険しい表情で山の惨状を見ている。

 「・・・ちょっと力加減を間違えちまったぜ」

 照れたように頬を赤く染め、朱羅が恥ずかしそうに言う。

 「間違えた!?間違えただけで山を幾つも破壊するのか!?お主は大和やまとの国を滅ぼすつもりか!?地形が変わってしまったぞ!!」

 青筋を立てて青い肌を赤くし怒鳴り散らす幽魔。

 いつもの縄張りの湖でくつろいでいたら空が急に赤く染まりだした。大江山の頂上がとんでもなくえらい事になっているのが見えた。

 此の世の終わりだと騒ぎ出し怯える配下の妖魔達、十中八九、朱天童子の仕業だと幽魔は思った。

 瞬間、炎の龍蛇が此方に向かって飛んできた。

 赤い龍蛇は真上を通り過ぎ、近くの山々の上から半分をことごとく消し飛ばしていった。熱気で湖が煮立ち、かなりの水量が蒸発した。

 幽魔を含め皆、慌てて逃げ出したのだ。


 「お主には昔からそういう所を直せ、と言っておろうに・・・」

 疲れたようにガックリと肩を落とす幽魔。困った顔で頬を掻く朱羅。
 
 「はあ・・・。とりあえず、まずはコヤツを起こさねばのう」


 そう溜息を吐き、幽魔は視線を気絶して倒れている茨姫童子に向ける。