複雑・ファジー小説

Re: 朱は天を染めて ( No.36 )
日時: 2014/03/11 12:18
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: zWzUF/vQ)

 第参十弐話 侵すもの


 幽魔は複雑な表情をして朱羅を見つめている。後から来た瑠華は状況が理解できておらず所在無さげにウロウロしていた。


 「・・・疼く事は前からあった。だけど、ここまで酷くなったのはこれが初めてだぜ」

 腕を抑え、苦しそうにしながらも余裕の笑みを浮かべる朱羅。だがそれが空元気なのが頬や額を伝う多量の汗で解る。

 「・・・いつ頃からじゃ。兆候は」

 幽魔は眼を細めてキツメの口調で朱羅に問う。少しの間の後、それにバツが悪そうに朱羅は答える。

 「・・・最近、此処ここ数日の間だ」

 眼を閉じ思案する様に考える幽魔は静かに口を開く。

 「・・・『奴』の目覚めが近いという事か」

 「ああ、まだ『完全』じゃあないが俺様の『呪痕』がそれを伝えてくるぜ。それがいつなのかはハッキリとは解らないがな・・・」

 そう言って朱羅は忌々しげに己の腕に刻まれた蛇の痣を睨む。


 ・・・夜魔堕大蛇ヤマタノオロチ


 二人の中で黒い、とても黒い闇の気配が横切る。それは魂すらも凍えさせてしまうかのようなおぞましく、忌まわしい感覚だった。
 




 沈黙が場を包む中、重い空気に居た堪れなくなった瑠華は何とか雰囲気を変えようと明るく振る舞う。

 「な、何だかよく解らないが、気分が落ち込んだ時はパーッと大騒ぎをすれば気が晴れるのだ!丁度、御社を新しく建てたばかりなのだ。宴会だ!新築祝いの宴会を催すのだ!!」

 一人であれやこれやと騒ぐ瑠華に朱羅と幽魔は固くなっていた表情を幾ばか和らげ、互いに顔を見合わせる。

 「・・・そうだな、美味い酒でも飲もうとしようぜ」

 「うむ、儂が酒と食い物を用意しようぞ」



 ゆっくりと、だが確実に忍び寄る影を心の奥底に感じつつもそれらを片隅に追いやる様に、朱羅達は宴会の準備に取り掛かるのであった。