複雑・ファジー小説

Re: 朱は天を染めて ( No.38 )
日時: 2014/03/12 17:34
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: 6i18Tf8q)

 第参十四話 来訪者・中編


 突如、大江山の頂上、しかも鬼の本拠地と言える場所に唐突に姿を現した人間達。

 「何故、人間がいるのじゃ!!」
 
 戦闘態勢に入る幽魔。

 「ちょ、ちょっと何がどうなってるのだ!?」

 肉に噛り付いたままオロオロしている瑠華。

 殺気立ち、慌てる幽魔達。だが混乱しているのは人間達も同じだ。突然目の前に現れた妖魔達。否、むしろ自分達が見慣れぬ場所に連れて来られた様だ。

 「何故こんな所に・・・ む!?彼奴は羅生門で戦った鬼の頭領!!頼光様!お気を付けください!!どうやら敵の罠の様です!!」

 「何か見覚え有ると思ったらあの時逃げた鬼か〜」

 頼光が茨姫童子を見る。

 「げっ!?あの時の人間!!アタシを追って来たのか!?」

 瑠華も戦いの構えを取る。
 
 謎の光に飲み込まれ、気が付けば目の前に妖魔。何かの術で強制的にこの場に転送されたのだ。これは敵が仕掛けてきた罠だと頼光達は武器を構える。

 人とあやかし、互いに一触即発の状態になる。


 「まあまあ、皆はん、そう殺気立てはりはんな♪」

 千璃が場違いな程の呑気な口調で言い柏手を再び鳴らす。

 その瞬間先程まで戦闘態勢だった幽魔達と頼光達は身体が硬直し動けなくなった。まるで石の様に重く自由が効かない。喋る事すらままならない。

 「・・・千璃。これがてめえの言っていた『面白い』客ってヤツなのか?」
 
 この状況を静かに見詰めていた朱羅は囲炉裏場の向かい側でニコニコしている妖狐に問う。

 「朱天はん、面白くなるのはこれからどすえ。さあ、あれを出しなはれ」

 そう千璃が告げると卜部が人形の様なぎこちない動きで歩いてくる。その顔は驚愕と恐怖で蒼白になっている。千璃が強制的に身体を操っているのだ。

 そして何も無い空間から術で格納されていた厳重に封印された桐の箱が取り出される。ゆっくりと箱に張られた霊符が剥がされ中から金細工で造られた見事な装飾の壺が現れた。


 「神酒、『神変鬼毒しんべんきどく』。さあ、朱天はん。あちきの取って置きのお土産、たっぷりと味わっておくんなまし♪」


 千璃は満面の笑みでにっこりと笑った。