複雑・ファジー小説

Re: 朱は天を染めて ( No.39 )
日時: 2014/03/13 12:08
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: NWPS2NZD)

 第参十五話 来訪者・後編


 卜部はぎこちない動作で涙目になりながら目の前の朱羅に黄金の壺の中の液体を盃に注ぐ。

 「ささ、朱天はん、ぐぐいっと♪」

 千璃が飲むように朱羅を促す。

 「・・・千璃、俺様がこれを飲まないと言ったらどうする?」

 朱羅が盃を持つ手を止めて千璃に問う。

 「う〜ん、そないしたらそれはそれで仕方ないどすけど・・・、あちきは朱天を信じてはりますから♪」

 確信しているかの様にニコニコしながら断言する千璃。

 「まあ、古の神々の酒ってのにも正直興味はあるぜ?」

 そう言って朱羅は盃の中身をを一気に煽る。

 「・・・んん?何だか、微妙な味がするぜ。酒って言うよりは薬の様な・・・?」

 それを見て千璃はさも嬉しそうにする。その時、朱羅の体に異変が起きる。

 「う、うぐっ!?か、体が、力が抜ける!?・・・い、いや、これは、俺様の妖力が浄化されているのか!?」

 荒く息を吐き、胸を抑える朱羅。その肩をそっと支え優しく背中を擦り介抱する千璃。

 「ふふふ、それで良いんどす、朱羅はん。あんさんの力は強すぎるんどすえ。いずれ『蛇』を呼び覚ましてしまうほどに・・・。その前に極限まで力を弱めてしまえば『器』として役に立つ事はありまへん」

 意味深な言葉を囁く千璃に朱羅は顔を上げる。

 「・・・お前は何者なんだ?何故、『蛇』の事を・・・」

 「ふふ、わざわざ人間を使って火硫草まで用意したのに退けてしまうなんて。保険を賭けて正解やわ。ほんま、あいかわらず昔から規格外なお人や・・・」

 千璃はどこか懐かしそうにそれでいて寂しげに言う。

 「・・・千璃。俺はお前とは会ってそれほど時は経って無い筈だが、もしかして、昔、どこかで逢っているのか?」

 朦朧とする意識の中、なにかが記憶の片隅に引っ掛かるがそれが出てこない朱羅。

 「・・・気にしなさんな、これからはあちきが朱天はんを守るさかい。このまま妖力が無くなっても死ぬ訳ではありやせん、力が弱まれば『呪痕』も大人しくなりまひょう。そしたら『蛇』に居場所は簡単にはばれまへん」

 朱羅の頭を愛おしそうに胸に抱く千璃が穏やかな口調で話す。

 「・・・二人で誰も知らない国に行きまひょうか?まだ発見されてない大陸がたくさんあるんどすえ」

 その時、動く事すら出来ずに状況を見ていた幽魔達と頼光達は何時の間にかどこからか入って来たのか知らない双子の少女がすぐ傍に立っている事に気付いた。

 その少女達の頭部の右側と左側にはそれぞれ角があり、人外の者だと告げる。


「「それは駄目だヨ。狐のお姉ちゃん♪」」

 
 千璃はその存在に一瞬遅れて気付いた。



 双子の少女が声を合わせ無邪気に笑った。