複雑・ファジー小説

Re: 朱は天を染めて ( No.4 )
日時: 2014/03/02 20:05
名前: Frill (ID: DKs/wtA1)

 第参話 水も滴る天邪鬼


 焦土と化した地面の一角から突然、水が湧き出し大きな水溜りができる。その水溜りが徐々に人の形を成していき一人の美少女が現れた。

 その少女の蒼い髪の頭に一本の角がある。彼女も鬼であり人外の者だ。

 まだ幼さがある顔立ちがなんとも愛らしく男を虜にしてしまいそうな可憐さがあった。

 「・・・ふう。これまた派手にやらかしたのう、朱天童子、いや、朱羅よ」

 朱天童子こと朱羅は炭化した大木の上で胡坐をかき酒を飲んでいた。

 「何だ、幽魔ユマ、生きてたのか。てっきり人間と一緒に焼き殺したかと思ったぜ」

 幽魔と呼ばれた少女は愛らしい顔を険しくさせて声を張り上げる。

 「お主がいきなり火炎をぶっ放すから慌てて地面に逃げ込んだのじゃ!危うく儂まで蒸発するとこじゃったわ!!」

 幽魔はフゥフゥと荒い息を吐いた。朱羅の隣で人間の女に化けて酌をしながら事の成り行きを見守っていたのだ。

 水の妖魔である幽魔に物理的な攻撃は皆無だが朱羅が放った火炎はまずかった。咄嗟に地面の土の中に隠れたのだ。
 
 「・・・まあ、それは良いとして、退魔師の始末、ご苦労じゃったのう。後で酒をたらふくくれてやろうぞ」

 幽魔が朱羅に労いの言葉を掛けた。
 
 朱羅はそれに酒を煽りながらふと疑問を口にする。

 「なあ、あの程度の奴等お前でも簡単に始末できるだろう?なんで俺様にわざわざ頼んだんだ?」

 幽魔はクスクスと意地の悪い笑みを浮かべて答える。

 「最近、人間共が調子に乗って儂の縄張りを荒らすのじゃ。悪名高いお主が誅するならば奴等も震え上がって暫くは大人しくするじゃろうて・・・」

 幽魔は人間の始末を朱羅にさせることによりその人間達の報復の矛先が自分ではなく朱羅自身に向く様に仕向けたのである。

 邪魔な人間を始末し尚且つ自分は安全な立場にいるという一石二鳥な作戦なのだ。
 
 「う〜ん?まあ、俺様は美味い酒が飲めれば構わんぜ」

 幽魔の思惑を気にする事もなく酒を楽しむ朱羅。

 幽魔はニヤニヤとした邪悪な笑みを崩さない。

 
 
 彼女は『天邪鬼』なのだから。