複雑・ファジー小説

Re: 朱は天を染めて ( No.41 )
日時: 2014/03/13 17:10
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: b1kDOJaF)

 第参十七話 想い、重ねて


 見上げても尚、巨大な氷の塊が幾重にも連なり辺りを覆い尽くしている。極低温の冷気で周囲の温度が急激に下がり息を吐くたび白く凍る。


 広場の一角に白い冷気が集まり人の形を成し、幽魔が現れる。腹を押さえて顔は苦悶の表情をしている。

 「ぬかったわ・・・!奴等ただの妖魔では無いぞ・・・!!」

 瑠華は朱羅を背中に抱え寒さに震えながら幽魔に聞く。

 「おい!なんだ、奴等は!白面九尾がやられたぞ!!ヤバいぞ!それと朱天童子が目を覚まさないぞ!!」

 幽魔は朱羅の首元に触れて状態を確かめる。そして眉を寄せて厳しい顔を作る。
 
 「・・・妖力が急激に弱っておる。おそらくあの酒のせいじゃ」

 「神酒の効力で妖力が浄化されてはるんどす」

 「「!!」」

 背後から聞こえた声に振り返る幽魔達。

 そこには千璃が立っていた。銀の髪と着物は血に塗れてボロボロだがそれほど負傷はして無い様だ。

 「・・・貴様、よくもぬけぬけと!!!」

 幽魔の殺気が膨れ上がり瞳が大きく見開いてドス黒く変色する。蒼い髪は逆立ち周囲を冷気が包む。

 「落ち着いてくだはれ、幽魔はん。浄化されとるのは『蛇』の力だけどす」

 「・・・『蛇』だと?どうして貴様がそれを・・・」

 殺気を抑えた幽魔は怪訝な顔で千璃を見る。

 「今は詳しく説明してる暇はあらへんどすえ。朱天はんは眠ってはるだけでおます。命に別状はありまへん」

 「・・・こやつに何かあったら儂が貴様を殺すぞ」

 鋭い眼つきで忠告する幽魔。

 「その時はご自由に。あちきは逃げも隠れもしまへん。煮る也焼く也好きにしてつかあさい。あちきは朱天はん、このお方が無事ならばこの身がどうなってもええんどす・・・」

 千璃は銀の瞳で真っ直ぐ幽魔を見つめる。その瞳には偽りや陰りはなくとても純粋な『想い』が感じ取れた。

 それは幽魔自身がもっとも感じているものと同じだった。

 決して譲れない大切なもの。

 「・・・ふんっ!貴様の心なぞ読むまでも無いわ!!」

 腕を組みそっぽを向く幽魔。千璃は柔らかい笑みを浮かべる。



 「・・・あれ?あたしは空気か?」

 瑠華は途方に暮れていた。