複雑・ファジー小説

Re: 朱は天を染めて ( No.42 )
日時: 2014/03/15 18:35
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: btsyIDbw)

 第参十八話 どこまでも真っ直ぐに 


 頼光達は離れた場所で自分達が置かれている状況を整理していた。

 本来の作戦では卜部の術で妖魔の外見に変身して朱天童子の元に潜り込むはずだった。そして神酒、神変鬼毒を飲ませて弱体化させて倒すという作戦だった。

 だが、妖魔によって直接大江山に連れて来られてしまった。どうやらその妖魔の狙いが神酒であり、朱天童子に飲ませる事だったようだ。そして今、朱天童子は弱っている。確実に倒すなら今こそがチャンスなのだが事態はもっと複雑な展開になっていた。

 「これでは朱天童子討伐どころではありませんね。妖魔同士の争いに巻き込まれる前に撤退したほうが・・・ 頼光様?」

 一度戻った方が良いと判断した綱は頼光の様子がおかしい事に気付いた。

 「・・・凄いよ、これが妖魔同士の戦いか。人間が束になっても適う筈ないよね」

 まるで新しい玩具を見つけた子供の様にキラキラした瞳をしていた。

 また少女の悪い癖が始まったと綱は思った。この状態になってしまったら綱でも止める事は出来ない。自ら好んで危地に飛び込み、先陣を切りたがるこの少女は戦いの申し子と言ってもいい。止めても無駄だと解っている。

 戦いの中でこそ源頼光という少女は輝くのだと綱は思う。とうの昔に覚悟は出来ている。この少女と一緒に生きるとはそういう事だ。

 「頼光様、いかがいたしましょう?このまま朱天童子諸共討ち取りましょうか?」

 「う〜ん、朱天童子とその仲間っぽい奴等は怪我して弱っているみたいだから綱達がまとめて始末していいよ。それより僕はあの双子の鬼と戦いたいよ。凄く強そうだからね」
 
 そう言って楽しそうに刀身を抜き、刃を確かめる頼光。

 「お、おい。まさか、あんた等あの妖魔達と本気でやり合うつもりなのか?」

 貞光は冗談かと疑ったが彼等は本気で戦うつもりの様だ。

 「嫌ならやめてもいいんだよ?死んじゃうかもしれないしね。あの妖魔達は並みの妖魔じゃないから。大妖魔より強いかも」

 呆気らかんと、にこやかに、これから死ぬかもしれない戦いに赴くというのに実に楽しそうに笑顔で話す頼光。

 その迷いなく無邪気で、狂気とも言える程の純粋さに貞光は心の底から身震いした。恐れからではなくそのあまりにも真っ直ぐすぎる生き様の美しさに。
 
 「・・・あたいも、あたいも戦わせてくれ!最後まで頼光様と共に戦いたいんだ!!」

 女神の様な優しい微笑みを返し、鬼神の様な覇気を纏わせる少女に改めて忠誠を誓う貞光だった。