複雑・ファジー小説

Re: 朱は天を染めて ( No.44 )
日時: 2014/03/16 00:46
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: syyiHjY.)

 第四十話 相対あいたいする者達 


 「千璃、お主はあの瓜二つの餓鬼共が何者かを知っておるのか?この儂の水性の肉体にも傷を負わせたぞ。」

 そう言って幽魔は己の腹を擦る。物理的な攻撃は効かない筈だが多少なりともダメージを受けてしまった。攻撃を受けた時の衝撃波の様なものが原因かもしれない。

 「あちきでもあんな妖魔は記憶にありまへん。ただ、『蛇』の手の者だという事は解りはります。そして狙いは間違いなく・・・」

 千璃は瑠華に背負われている朱羅に視線を移し、幽魔の視線もそれに合わせる。

 「・・・どちらにしろ厄介な相手じゃのう」

 溜息を吐く幽魔。

 「あたしはどうすればいいんだ?朱天童子を連れてどこかに隠れていればいいのか?・・・狙われているんだろ?」

 不安そうにする瑠華。

 「そうじゃのう。儂の縄張りの湖・・・」

 幽魔は途中で言葉を止め、千璃が視線を向ける。瑠華は朱羅を庇う様に後ろに下がる。


 瞬間、何者かの俊足が駆け抜け、刃の軌跡が描かれる。だが幽魔達は素早くその場を離れ奇襲を躱した。

 「・・・何の真似じゃ、人間」


 幽魔は刀を構えて此方を見据える隻眼の女武士を睨む。


 鈍く輝きを放つ太刀を低く腰だめに構え、綱は静かに言い放つ。

 「私の名は渡辺綱。貴様等、人に仇為す異形を滅ぼす者」

 言葉が終ると同時に鋭く踏み込み、瞬時に間合いを詰める。


 幽魔は舌打ちをして素早く印を組む。

 「水鋼翔斬すいこうしょうざん!!」

 綱の周囲に水流が幾つも出現し硬質化した水の刃となる。だが迫り来る水の刃に足を止める事も無く、むしろその速度を増して切り込む。

 「天剣絶刀・落葉のてんけんぜっとう・らくようのまい

 妖しく光る鈍色の太刀がゆるりと残像を描き虚空を舞う。襲い来る水の刃はまるで刀身に吸い寄せられるように切り裂かれて全て霧散する。

 「!! ・・・やるではないか人間。ならばこれはどうじゃ!!」

 幽魔は後方に飛びつつ印を組み変える。

 「氷戒呪牢壁ひょうかいじゅろうへき!!!」

 霧散した水が瞬時に氷の塊となり、更に地面から氷壁が幾つも現れて綱を上下左右に押し潰す。

  だが、

 「夢幻刀舞・千刃乱れむげんとうぶ・せんじんみだれざくら


 氷の牢獄となった氷壁に刃の閃きが幾重にも奔ると、氷塊は木端微塵に粉砕され、細かな煌めきとなり辺りに散った。


 「妖しのわざごときで、私の信念と、この『鬼斬丸おにきりまる』を折る事は決して出来はしない」 


 刀に残る氷の飛沫を払うと刃の切っ先を向け、綱は言い放った。