複雑・ファジー小説

Re: 朱は天を染めて ( No.46 )
日時: 2014/03/16 00:41
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: syyiHjY.)

 第四十弐話 相対あいたいする者達・後編


 連なり、そそり立つ巨大な氷の塊。呼吸をする度、肺をも凍えさせてしまうかと思う程、辺り一帯が身も凍る冷気に閉ざされており、生物の気配は一切ない。

 その先程まで御社があったであろう場所に頼光は白い息を吐きつつ実に楽しそうに散策していた。
 
 「確か、この辺だったと思うんだけどな〜」

 刀で氷をつつき何かを確認している。

 「う〜ん、ん? これかな?」

 頼光が足を止めマジマジと氷壁の一部を見ている。氷の塊の奥に人影らしき姿が在るようだ。

 「ていっ!」

 それを見つけると頼光はおもむろに刀で斬り付け、巨大な氷壁を一刀両断にする。氷壁は砕け散り、中から左右対称の角を持つ双子の幼女が現れた。

 大きな瞳でパチクリと瞬きをする双子の少女達。

 「・・・あれ!?いつの間にかボク達、外にでられたヨ!?兎那!」

 「・・・あれ!?いつの間にかアタシ達、自由になったワ!?須狗!」

 お互い顔を見合わせ、そして目の前でニコニコしてる頼光を見て驚く。
 
 「ねえ、君達。僕は源頼光って言うんだけど・・・」

 頼光が話そうとするが、少女達は聞く耳を持たない。

 「人間だ!何で人間がいるの!?どうしよう、兎那!?」
 
 「人間だ!兎に角、殺そう!!そうしよう、須狗!!」

 言うが早いや少女達はそれぞれ大きく腕を振り被り眼前の頼光に叩き込んだ。その衝撃で辺りの氷塊に亀裂が走る。


 衝撃が止み、大きく抉れた大地には拳を突き出したままの双子の少女が驚愕していた姿があった。

 「「!?」」

 「・・・痛った〜!!!身体がビリビリするよ!どうなってるの?凄いね、君達!!」

 頼光が両手で少女達の拳を受け止め、平然としていた。その反応はさほどダメージを受けた様子が無い。

 双子の少女は顔を見合わせ後方へ飛び退く。そしてもう一度、今度は助走をつけて拳を撃ち出す。先程とは比べ物にならない程の衝撃波がほとばしり亀裂の入った氷壁は瓦解し、粉々に砕け散った、が。

 「「!!??」」

 「くうぅ〜っ!痛い〜!!でも解ったよ!この衝撃波は『振動』を利用してるんだね。どんなに身体を鍛えていてもこれなら攻撃が効くだろうね」

 楽しそうに技の分析をしている頼光。口元からは血の滴が零れている事から今のはかなり堪えた様だが、あきらかに人の領域を超えているものだった。
 
 少女達は考えた。そして理解した。今、目の前にいる人間は非常に危険であり、最優先で抹消しなければならない対象であると。

 「兎那。この人間、『壊す』ヨ」

 「須狗。この人間、『壊す』ワ」

 双子の少女の雰囲気が変化した。周囲の冷気よりも何倍も冷たい殺気が包み込んだ。

 頼光は少女達の気配が全く別の者に変わった事に気付き素早く刀を構えようとしたが、既に少女達の姿は視界から消えていた。

 「え?」

 「「双演鬼神・冥破無影拳そうえんきしん・めいはむえいけん」」

 空間が揺らぎ、二対の影が出現した瞬間、頼光が空高く跳ね上がる。影が音も無く静止した空間を縦横無尽に交差し無数の拳が頼光を打ち据える。影は次第にその数を増し、頼光の姿を黒く塗りつぶす。


 静止した空間が再び動き出した時、双子の少女は元の場所に何事も無く立っていた。

 足元には原型を辛うじて留めた頼光の身体が打ち捨てられていた。