複雑・ファジー小説
- Re: 朱は天を染めて ( No.48 )
- 日時: 2014/03/17 01:38
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: y0zMT9VM)
第四十四話 鋼の刃、氷の牙
綱と幽魔は膠着していた。
互いに決め手を幾つも放つのだが紙一重のところで退けてしまうのだ。
喰らえば即、死に直結すであろう技の応酬。
両者とも一歩も引かず、一瞬たりとも隙は見せない。ジリジリと間合いを測りつつ、睨みあう。
幽魔はフウッと溜息を吐く。
「・・・埒が明かんな。人間よ、そろそろ終いにしようかの?」
幽魔の言葉に綱は表情を僅かに緩める。
「奇遇だな、妖魔。私もいい加減ウンザリしていたところだ」
お互いに不敵な笑みを返すと戦いの空気は更に濃密なものとなり、膨れ上がり、場を圧迫する。
「人間にはもったないが特別に見せてやろう!!深淵の領域に潜む凍える災厄を!!!」
先手を取った幽魔が印を刻む。
「魔界氷塵羅業結晶龍!!!!」
冷気の嵐が幽魔の身体を覆い、結晶化させてゆく。そして見る見るうちに巨大な氷塊の龍が誕生する。
氷の大龍は氷雪の吐息を放ち咆哮を上げ、その巨体から凄まじい冷気を発して周囲を凍らせる。そして眼前の敵を葬り去ろうと凶悪な顎を開き、疾駆する。
「ならば私も取って置きの奥義を披露しよう。全ての魔を両断する絶対たる聖なる御業を」
綱は刀を鞘に納め、姿勢を低く構える。
呼吸を整え、全身から漲る闘気を全て、己の分身とも言える一振りの刀身に収束させる。
極限まで高め、研ぎ澄ませ、そして抜き放つ。
悪しき者を滅する一撃を。
「破邪剣聖・逢魔一閃魂魄斬りの太刀」
互いの技と技がまみえた瞬間、激しい閃光が奔り、轟音と衝撃の波動が全てを包み込んだ。
大きく抉られ凍り付いた大地。そこには誰の姿も無く、氷の龍が地の底に喰らいついたまま、巨体を微動だにしない。
その顎に小さな亀裂が走る。それは徐々に広がり、ついには氷の龍の頭が砕け散った。
氷雪の礫が煌めき舞い散り、幻想的な光景を映し出す中、二人の姿が現れる。
折り重なるように唯、立ち尽くす。
発する言葉も無く。
その胸を鈍色の刃が刺し貫き、その体を氷の牙が深々と穿っていた。
二人は凍り付いた大地の上に音も無く静かに倒れ伏した。