複雑・ファジー小説
- Re: 朱は天を染めて ( No.49 )
- 日時: 2014/03/20 13:32
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: 2rVK2fl9)
第四十五話 真打ちは遅れて現れるもの
耳を塞ぎたくなる様な鋭い金属音が鳴り響く。
貞光の喉を掻き斬ろうとした白銀の鉤爪は巨大な鉄の戦斧によって遮られていた。
「・・・させない。オイラの仲間を殺させなんてしない」
金時がその金色の瞳で眼前の妖狐を睨みつけ、勢いよく戦斧を横薙ぎに斬り払う。巨大な刃は千璃の胴を両断する寸前、空間が湾曲し虫食いの様に穴が開き、その姿が消える。
そして再び空間が揺らいで千璃が姿を現す。
「・・・あちきの姿を捉えるなんて、なかなか腕がありますなあ。ほんなら、これなんてどうどす?あちきの尻尾に砕かれや♪九尾百鬼乱舞」
金時が戦斧を構え直す僅かの隙に千璃は白銀の尾を流れる様に大きく広げ、高速に連続で叩き付ける。白銀の尾は柔らかそうな見た目とは裏腹にまるで鋼鉄の鈍器の如く重厚さを放ち、襲い掛かる。
縦横無尽の怒涛の尾による猛烈なラッシュを受けて、貞光がいる後方に吹き飛ばされる金時。だが直ぐに体制を整えて踏み止まる。千璃の攻撃を全てギリギリで戦斧でガードし、あえて自ら後ろに飛ばされる事で威力を相殺した。
距離を取って対峙する千璃と金時。
「・・・すまねえ、金時の嬢ちゃん。油断しちまった、妖魔の術に意識を持ってかれた」
貞光は冷や汗を拭いつつ前方で斧を構える金時に礼を言う。それに頷き答える金時。二人が武器を構え、千璃に向かおうとした時、巨大な影が二人の頭上を覆う。
「「!!」」
「必殺!!巨樹乾坤烈震撃!!!」
頭上から瑠華が右手を巨大な樹木に変化させ落下し、貞光と金時を押し潰そうと迫る。素早く飛び退いて間一髪避けた途端、先程まで立っていた場所を巨木が激突し、大地を呑み込む。
轟音と地響きと共にめり込んだ大木の上に瑠華が仁王立ちし、二人に挑戦的な視線を投げかけて指差し、声高らかに叫ぶ。
「覚悟しろ!邪悪な人間共!!妖魔の平和はあたしが守る!!!華麗に果敢に優雅に参上!超絶美少女、茨姫童子『瑠華』爆誕!!!!」
瑠華の背後で極彩色の爆発が幾つも起きて噴煙が上がり、その煙に撒かれて激しく咳き込む。
「うぶ!?げほっ!!げほっ!!け、煙が目に染みるのだ!!!」
「「・・・」」
貞光と金時は武器を構えて千璃に向き直る。
「あ、あたしを無視するな——!!げほっ!お、おのれ、人間め!精神的にあたしを攻撃して亡き者にするつもりだな!?させるか!あたしの力を思い知るがいい!!」
瑠華は両手を大木に据えて叫ぶ。
「樹呪人形大魔劇!!!」
すると地面に埋まった巨木が身を震わせ、命を得たかの様に突然動き出す。無数の枝を幾重にも伸ばし、どんどんと大きく太く成長していく。
そして森の様な巨大な体躯を揺るがし幹の足を大地に突き立て、悠々と立ち上がった。
『ウゴゴゴゴオオォォォッ・・・!!!!』
巨木の巨人の切り株の頭が雄叫びを上げる。
それを見上げる貞光と金時。
「・・・おいおい、洒落にならないぞ」
「で、でっかい・・・」
「やれ!大木人鬼!!蹂躙しろ!!!」
瑠華が頭の上で命令を下すと森の巨人は巨木で出来た腕を高々と空に振り上げ、大地を薙ぎ払うかの様に突き立てた。