複雑・ファジー小説

Re: 朱は天を染めて ( No.5 )
日時: 2014/03/16 01:22
名前: Frill (ID: syyiHjY.)

 第四話 狐、都に潜る


 京の都、その政り事の中心たる帝と貴族達の権力を現すかの様な巨大かつ優美な建造物、『貴族院』。

 その御所の一角、名のある貴族でも殿上することが許されることが無い禁忌とされる場所。蝋燭の薄い明りが照らす中、数人の者が集まり何かを話し合っている。

 「大江山の鬼退治は失敗したか」

 「並みの退魔師では太刀打ちできぬということだな」

 「数を増やしてはどうか?死兵ならば多少は効果があろう」

 「いや、彼奴らは腐っても大妖魔。雑魚共とは格が違う。力だけでは解決せまい」

 貴族服の者、法師の袈裟姿の者、巫女装束の者、全身黒尽くめの者等が語り合う。

 彼等は裏の顔を持つ者達。決して表にその正体を曝すこと無い闇仕事を生業とするのである。
 
 陰陽、神道、外法、あらゆる手段を用いて世に災いを成す魔性を調伏する、それが彼等の成すべき事。

 そして彼等の今の課題は都近辺の山に巣食う『朱天童子』なる鬼をいかにして処分することかにあった。

 「力技では無理ならば策を持ちて籠絡するのはいかがだろうか?」

 貴族風の男が提案を出すと周りの者がそれに食いつく。

 「ほほう、ではその策とは?業平なりひらの中将殿」

 業平と呼ばれた貴族風の男は扇子を優雅に口に当て語る。

 「かの大妖『朱天童子』は無類の酒好きと聞き及ぶ。またの名を『酒呑童子』ともいうほどに。ならばくれてやれば良い、最高の酒を」

 その話を聞いて怪訝とする者達。

 「酒に毒でもいれるのか?妖魔に毒が効くとは思わんが・・・」

 業平の中将は皆の疑問の顔にしたり顔で答える。

 「毒は毒でもただの毒ではない。奴等にとって最高の毒になり得る究極の毒、『神酒』だ」

 業平の発言に皆、一動に驚きの声を上げる。

 そして大江山の鬼を退治すべく作戦が練られる。

 業平の中将は終始ニコニコと笑みが絶えなかったがそれを誰も不審に思わない。

 

 さあ、お膳立ては整いました。あちきはもそっと下ごしらえをしてからお祭りに向かいまひょう。



 蝋燭の薄明りが中将の影を照らす。それが九つの尻尾の狐を映し出すが誰も気付く者はいなかった。