複雑・ファジー小説

Re: 朱は天を染めて ( No.50 )
日時: 2014/03/17 20:55
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: DKs/wtA1)

 第四十六話 人にして人に在らず者


 双子の鬼の幼女、須狗と兎那は足元に転がる血溜まりの中の肉塊を見下ろす。

 「おかしいヨ、兎那」

 「おかしいワ、須狗」


 先程まで生きていた人間の少女は死んだ。殺した。それは間違いない。
肉はひしゃげ、骨は砕け、臓腑は弾け、手足はあらぬ方向に曲がっている。呼吸は無い、心臓も潰したから。生きているわけは無いのだ。

 ただ、何故か原型を留めている。肉片も残さず粉微塵にする筈だったのだが出来なかった。唯の人間では無いと思ったが何か得体の知れない抵抗感の様なものを感じた。

 少女達は互いに顔を見合わせ、念のために首をもごうと手を伸ばした時。

 ドクン、と何かが脈打った。

 須狗と兎那はその場を飛び退き身構える。殺したはずの人間に。

 再び、ドクン、と脈打ち血溜まりの肉塊が鼓動する。潰れた筈の体の肉がズルズルと寄り合わさり、折れ曲がった手足がバキポキと奇怪な音を上げ元に戻る。血溜まりは啜る様に肉体に吸い込まれ一滴も残らない。

 鼓動の音が強くなる。ドク、ドクと激しく脈打つ音が此方まではっきりと聞こえる。

 須狗と兎那は本能的に危険と判断し、拳を振り上げ躍り掛かかるが人間の少女の姿が其処から跡形も無く消えていた。

 「「!?」」

 「・・・素晴らしいよ、君達。僕をここまでボロボロにするなんて。嗚呼、君達なら僕の『力』に耐えられるかもしれない・・・」


 何時の間にか背後に移動した少女、源頼光がズタズタになった服を辛うじて纏っていた姿があった。その白い健康的な玉の肌は一切の傷が無く攻撃を受けた痕跡が微塵も無い。

 頼光の露わになった胸元には何かの肉の盛り上がりがあり、不気味に脈打っていた。血管の様な筋が無数に奔り、身体の一部になっている。

 それは見様によっては珠の様な、『勾玉』の形をしていた。

 それを見て双子の少女は眼を大きく見開く。

 「・・・まさか、そんな事が?」

 「・・・ありえない、人間が・・・」


 頼光は殆ど裸同然の恰好なのを恥ずかしがる事無く自分の胸元の奇怪なモノを指差す。

 「ん?これが気になるの?これは僕が生まれた時から、『此処』にあるんだよ。不思議だよね。これの『力』のおかげで僕は病気一つした事無いんだ」

 そう言って脈打つそれを触る頼光。そして双子の少女達に顔を向けると飛び切りの笑顔で言う。


 「さあ、今度は僕の番だね。いいかい?簡単に『壊れ』ちゃ駄目だからね♪」