複雑・ファジー小説

Re: 朱は天を染めて ( No.53 )
日時: 2014/03/18 22:12
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: HbGGbHNh)

 第四十九話 立ち塞がるもの 


 大地を踏み荒らし、薙ぎ払い、大暴れする巨木の巨人。

 その見上げる程の巨体に似つかわしくない俊敏な動きで貞光と金時を翻弄する。

 「くっ!野郎!!調子に乗りやがって!!!」

 迫り来る大木の太い腕を躱し、貞光が文句を言う。

 「ふんっ!!せいっ!!このままじゃ何時かやられる・・・!!!」

 切っても切っても生えてくる樹木の攻撃に焦りを覚える金時。


 巨人の上で瑠華が高笑いをしている。

 「ふははははっ!!その調子だ!大木人鬼!!踊れ踊れ、人間共!!見ろ!!まるで人がゴミの様だ!!!」

 「調子良さそうどすな、茨姫はん」

 その隣に何時の間にか千璃が座っていて、その脇には小木人鬼が朱羅をしっかり抱えて待機している。

 「絶好調だ!あたしの伝説はここから始まるのだ!!もう朱天童子にも天邪鬼にもデカい顔はさせない・・・!最強はあたし、茨姫童子様なのだ!!!」

 瑠華が拳を高く上げて叫ぶ。

 「あっ、茨姫はん。人間はん達が来なはったで」

 千璃が唐突に言う。

 貞光を抱えた金時が器用に巨人の攻撃を躱しながら巨体を登ってきた。

 「うわああああっ!!反則だろ!登って来るんなんて!!ズルいぞ!!正々堂々と戦え、人間!!」

 頂上まで登りきり、貞光が金時から降りて槍を向ける。

 「お前が言うなっ!こんなのと真面に戦えるかっての!!」

 「オイラもお前のほうがズルいと思う」
 
 金時も斧を構え頷く。


 「・・・しつこいお人達やな。あちきがもう一度お相手しまひょか?」

 瞬時に貞光達の背後に現れる千璃。

 「刈り取れ、凶爪魂掴まがづめたまつかみ

 出現と同時に鋭い両手の爪で無数に切り裂く。

 「おっと、不意打ちはもう懲り懲りだぜ!閃空螺旋槍せんくうらせんそう!!」

 だが、貞光が槍を高速回転させ全て防ぐ。

 「金時の嬢ちゃん!ここはあたいに任せな!あんたはもう一人と朱天童子を頼む!!」

 「わかった!!」

 金時は素早く瑠華の元に向かう。

 「!! させまへん!」

 千璃が空間を歪ませ溶け込もうとする寸前、凄まじい速さで槍が突き込まれた。

 「ぐふっ!!?」

 空間の歪みが消え、脇腹を血に染めた千璃が元の場所に現れる。

 「やっぱりな。消失と出現に少し時間差があるみたいだな、あんたのそれ」
 
 槍を油断なく構える貞光。

 「くっ、図に乗るなや、人間!魔光傀儡眼まこうくぐつがん!!」

 千璃の銀色の瞳が妖しく発光する。そして千璃はその場を離れようとするが眼前に槍を突き立てられ動きが止まる。

 「!?」

 槍を構えたまま貞光が申し訳なさそうに言う。
 
 「あ〜、あんたのそれもあたいには効かないよ。同じ技が通用するほどあたいも馬鹿じゃないんでね。油断はしない・・・」

 目を瞑ったままの貞光が槍を引き戻す。千璃との戦いの間ずっと眼を閉じたままでいたのだ。

 「あんたの幻術か、それは?最初、あんたと視線を合わせたら駄目かと思ったんだが、どうやらあんたを無意識にでも『視界』に入れた時点で決まっちまうみたいなんでな」

 そして眼を閉じたまま槍を腰に構える。

 「だから、最初からあんたを見ない。まっ、金時の嬢ちゃんが気付いて教えてくれたんだけどな」

 千璃は内心かなり焦ったが納得した。あの金髪の少女には自分の邪眼が殆ど効かなくなっていたので訝しんでいた。そして同時に何者かと思ったのだ。

 「ふふ、それならそれで戦い様は幾らでもあるんどす。あんさんに構ってる暇が無くなったわ」

 千璃の姿が蜃気楼の様に揺らぎ白い煙が上がる。白煙が覆い、その中から九本の尾を持つ巨大な白銀の妖狐が現れた。

『悪う思わないでや、人間はん。ちょいとばかし本気で行きまっせ』

 白面九尾は巨大な体躯をしならせ、九つの尾を大きく広げ震わせた。