複雑・ファジー小説

Re: 朱は天を染めて ( No.54 )
日時: 2014/03/19 03:22
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: HbGGbHNh)

 第五十話 鬼神対鬼神


 頼光と双子の少女が対峙する。

 何者も入り込む余地が無い程の圧倒的な緊張感が醸し出されている。

 にも拘らずニコニコと笑顔の頼光は気安く双子達に質問する。

 「君達の名前、まだ聞いてないよね。良かったら僕に教えてよ」

 双子は警戒しながら顔を見合わせ、間を置いた後、名乗る。

 「ボクは須狗」

 右の側頭部に角がある男の子の様な喋り方の少女が答える。

 「アタシは兎那」

 左の側頭部に角がある女の子の喋り方の少女が答える。

 「うん、須狗ちゃんと兎那ちゃんか。二人とも良い名前だね。改めて自己紹介をするよ。僕は源頼光。源家当主、源満仲みつなかの嫡子。宜しくね」

 場の空気に似つかわしくない態度で自己紹介した頼光は己の拳を眼前でゆっくりと握り、双子の少女に微笑み、言う。

 「それじゃあ挨拶も終わったし、早速始めようか?」

 その言葉を最後まで聞く前に須狗と兎那の二人の腹に頼光の拳がめり込んでいた。

 「ぐがっ!!?」

 「げふっ!!?」

 そしてそのまま後方に吹き飛ぶが、すでに頼光が拳を構えて背後に立っている。

 「そーれっ、二発目だよ」

 そのまま拳を突き出し双子の背中を打つ。その反動で前方に飛ばされた双子が何とか対処しようと地面に腕を突き立て勢いを殺し衝撃を止める。

 双子はすぐさま背中合わせで構えを取るが頼光の姿は見当たらない。

 「そっちじゃない、上だよ」

 次の瞬間頭上から双子の脳天を打ち下ろす拳が直撃し双子の少女を大地にめり込ませる。


 頼光がめり込む双子の片割れの足を掴み地面から引きずり出す。

 「まさか、これで終わりじゃないよね?」

 頼光が逆さまになった須狗に問うと少女の眼が見開き拳を頼光の顔面に打ち付ける。

 「鬼王豪覇掌きおうごうはしょう!!」

 連続で放たれた衝撃波で頼光が吹き飛び、それをもう一人の少女、兎那が追いかけ、連続蹴りを放つ。

 「鬼王烈覇蹴きおうれっぱしゅう!!」

 無数の衝撃波が走り、頼光は地面を抉りながら長距離を吹き飛ぶ。


 瞬きすら許さぬ攻撃の嵐。刹那の間に凄まじい応酬が繰り出されている。常人には知覚できず並みの妖魔では追い付けないだろう。

 
 抉れた大地の先で頼光が起き上がり此方に何事も無く歩いてくる。身体のあちこちに傷があるがたちまちの内に修復されていく。胸の肉腫は心臓の様に脈打ち不気味に鼓動している。

 双子の少女は負傷はしているが苦痛を感じている様子は無い。

 少女達は考える。そして判断する。頼光という人間を殺すには胸の脈打つ『モノ』を破壊しなければならない。だが、今の状態では火力が足りない。

 少女達は判断した。あれをやろうと。

 そして双子の少女達は互いに手を取り鏡合わせの様に向かい合う。

  「「双演鬼神・冥融魔合そうえんきしん・めいゆうまごう」」

 二人の少女はお互いの影の中に手を潜り込ませ、それぞれの影の中から黒い禍々しい剣を取り出す。その二本の剣を鏡合わせの様に翳し、お互いの胸に深々と突き立てた。

 剣を突き刺した少女達が重なり合うように次第に影の中に飲み込まれていく。

 黒い影が禍々しい波動を放ちながら不気味に胎動し形を変える。そして大きな塊となり人の形を創り出していく。

 その尋常ならざる黒く禍々しい波動を受けて頼光の眼が期待する様に輝く。


 黒い影が人の形を成し、妙齢の美女の姿が現れた。

 灰色の長髪に、四本の角を持ち背丈は二メートルはあるだろう長身。肉体は豊満かつ、しなやかで筋肉が流麗に線を描く。褐色の肌は異国の戦女神の様な美しさと艶めかしさがある。

 自己主張する豊満な身体を覆う黒い鎧は申し訳程度の面積で防御より機敏性を重視しているかの様だ。

 美女の眼が開く。暗黒の瞳を。光は一切なくどこまでも暗い。

 そしてそれに合わせ三つ目の額の眼が開いた。

 禍々しい紅い瞳を。