複雑・ファジー小説

Re: 朱は天を染めて ( No.57 )
日時: 2014/03/20 19:47
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: l6K9Eb8k)

 第五十参話 全力、激突


 「鬼哭剛斧斬きこくごうふざん!!」

 連続で斧を叩き込み、何処までも伸びてくる茨を断ち切りながら金時が瑠華に迫る。

 「ええいっ!しつこいぞ!人間!!だが、あたしはやられはしない!!やられはせんぞ!!!妖樹・狂咲散々花ようじゅ・きょうしょうさざんか!!!」
  
 無数の茨から毒々しい紫の花が幾重にも咲き、その花弁が牙を剥いて襲い掛かる。喰らい付こうとする花の化け物達と戦いながらも金時は瑠華の背後に守る様に立っている木人鬼を見ていた。その腕に朱天童子が抱かれている。

 「ふははははっ!その花には猛毒がタップリ含まれているのだ!掠っただけでも即、お陀仏だ!!」
 
 瑠華が得意げな笑みで笑う。

 金時は一旦後ろに飛んで距離を取り、大きく戦斧を振りかぶる。

 「戟閃・伏魔滅斧断げきせん・ふくまめっぷだん!!!!」

 そして渾身の力を込めて眼前の群れを成す茨と花の化け物に向けて投げ飛ばした。

 巨大な戦斧は凄まじい速さと威力で瞬く間に茨と花の壁を引き裂き、瑠華の目の前まで勢い良く飛んで来た。

 「ひいいいぃぃっ!!!???」

 瞬時にその場で頭を抱えしゃがみ込む瑠華の真上を通り過ぎる斧。その上を金時が素早く飛び越え駆け抜けて行く。同時に鋭い打撃音が響き後方に居た木人鬼が戦斧を喰らい吹き飛んでいく。

 そして金時の両腕には意識の無い朱羅がしっかりと抱かれていた。











 白煙から現れた巨大な白銀の狐の妖魔。しなやかな銀毛と体躯で槍を構える人間の女と向かい合う。

 「・・・見なくても解るぜ。やばい気配がしまくりやがる」

 眼を閉じたまま冷や汗を掻く貞光。槍を持つ手に力が入る。

 
 『ほんならささっと終わらせまひょう。覚悟しいや、今のあちきはちぃとばかしご機嫌斜めやわ』

 白面九尾は巨大な前足を掲げ、鋭い牙を覗かせてニヤリと口角を吊り上げる。

 『では、いきますえ、人間はん』

 九尾を取り巻く気配が禍々しいものに変わる。
 
 『・・・黄泉の淵より零れ出ずる不浄の闇子。這いずるは混沌の牙。すべからく、すべからく、等しき愚かな御輩みやからに無慈悲なる采配を与えたもう・・・』

 九尾の九本の銀毛の尾が大きく広がり、その中心にドス黒い瘴気の奔流が凄まじい勢いで渦捲く。闇を凝縮した様な瘴気の塊は黒く波打たたせながら次第に肥大化し、魍魎の如く嘆き呻く。

 貞光は全身を蝕む濃厚な闇の気配を感じ己の死を予感した。

 『さあ、闇に喰われて死に・・・ん!?朱天はん!!?茨姫はん何しとんのや!!!!』

 突然九尾が貞光の後方に視線を向けて驚愕している。

 「!? 今しかない!!!」

 貞光が槍を持つ手を捻ると瞬時に長槍の柄に幾重にも亀裂が走りバラバラになる。それは鎖に繋がれた無数の根となり、宙に軌跡を描き縦横無尽に飛翔し踊り舞う。貞光は跳躍し白面九尾に全力の攻撃を繰り出す。

 「鳳凰翔駆・活殺舞麗封刹坤ほうおうしょうく・かっさつぶらいふうせつこん!!!!」

 白面九尾は我に返り、身構える。

 『!!? 小賢しい!!!禍津召獄・餓鬼魂蝕まがつしょうごく・がきたまはみ!!!!』

 大樹の巨人の上で激しい衝撃がぶつかり合う。