複雑・ファジー小説
- Re: 朱は天を染めて ( No.58 )
- 日時: 2014/03/21 23:32
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: yU3pc2AF)
第五十四話 破壊の衝動
双子の鬼の少女、須狗と兎那が融合し、その影から誕生した美女。
灰色の長髪、四本の漆黒の角、褐色の肌。流麗な筋肉を纏い、扇情かつ蠱惑的な肉体を僅かに覆う黒鎧が黒光りする。
双眼は黒一色で感情が微塵も感じられない。ただ額に開かれた紅眼がギョロギョロと辺りを忙しなく見回している。
静かに、だが不気味に立つ人外の美女に頼光は警戒も無く近寄り話しかける。
「ねえ、どうなってるの?合体しちゃったの?凄いな〜!あっ!でも、名前はどうなっちゃったの?」
美女をしげしげと観察しなが頼光は問う。
『・・・宿儺』
美女が喋る。感情が無い平淡な声で。だが黄泉の底から響く様なおぞましさを秘めている。
「すくな?」
頼光が間の抜けたように言う。
『名、宿儺。両面宿儺』
美女が黒い眼で頼光を見た瞬間、頼光はその頭を掴まれ大地に抉り突き込まれていた。
「!!!???」
そのまま両面宿儺は大地を駆け抜け、引き摺る頼光もろとも、いまだ残る氷の塊に叩き込んだ。
『鬼神覇王黒煉掌』
禍々しい黒い波動が放たれ、周囲を闇の空間が呑み込む。
黒い波動が収まると地面には、ザックリとくり抜かれた巨大な穴が穿たれ、宿儺の右手に頭を掴まれたままの頼光が力無くダラリとぶら下がっていた。
「・・・は、はは、つよ、いね。圧倒的、だ・・・」
鮮血で染まる頼光を高く掲げ、左腕で頼光の胸元の肉腫に拳を放つ。
「げぼぁっ!!!!」
拳は胸を抉り骨が砕ける音が響く。頼光の口からドス黒い血が吐かれて宿儺の顔を染めるが瞬きもせず淡々と拳を頼光の胸に打ち付ける。
ボタボタと血溜まりが広がり足元を濡らす。
宿儺は動かなくなった頼光の胸元に勢いよく黒い鉤爪を突き立てる。
そしていまだ脈動する肉腫を握り潰そうとする。
が、
その宿儺の腕を頼光が両腕で掴み回転させ引き千切った。
反動で大きく仰け反り、頼光を掴む手を放してしまう。その僅かの隙に拘束を解かれた頼光は反転し後方に飛び退いた。
ゴキゴキと骨が軋み再生する頼光。顔は微笑みを讃えているが今までの無邪気さが消えている。
そして何時の間にか、その手に刀が握られていた。
「・・・武器が無いと少し厳しいかもね。だから使わせてもらうよ、この『蜘蛛切丸』を」
そう言って蜘蛛切丸を構える。鬼斬丸と対を成す宝刀。源家に代々伝わる二本の太刀。一本は信頼の証として綱に与えた。これはもう一振りの破魔の刀、太古の昔、蜘蛛の魔神を斬り伏せたという伝説がある。真意はともかく、今は頼光の愛刀である。
宿儺は千切れた腕を掴むとおもむろに取り付けた。黒い波動が覆い、何事も無く元に戻っていた。
再び壮絶な戦いが始まろうとした時、頼光がピクリと上を見上げた。
「・・・なんで、金時。君は・・・」
見開き凝視していた頼光は宿儺に言う。
「ごめん、やる事ができた」
そう言ってその場から瞬時に姿を消した。
残された宿儺は頼光が消えた方角を見て呟く。
『・・・朱天童子、贄』
そして両面宿儺の姿が闇に溶けて消えた。