複雑・ファジー小説

Re: 朱は天を染めて ( No.59 )
日時: 2014/03/22 23:17
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: zlsHcGtF)

 第五十五話 目覚める者


 先程まで人間の集落だった場所。

 広場に御山の様に無数の屍が積み重なっている。

 人、人、人、すべて人間の亡骸。

 男も女も子供も老人も折り重なった死肉の塊。

 黒衣の女、月夜見は右手に三種の神器、天叢雲剣をかかげ、呪詛を唱える。

 「我は望む、災厄を糧とし生きとし生ける者を蝕む強欲な罪児つみご。幾千の亡骸を喰らい、幾万の嘆きを飲み干す混沌の御柱みはしら。黄泉のこごりを母なる水とし、黄昏の朱き焔を父と為す」

 月夜見の天叢雲剣が宙を舞い、屍の山に飛翔する。

 「産まれよ、愛しき児よ。生まれよ、破壊の忌み児よ」

 剣から黒い炎が吹き出し屍の山を包み、燃やす。

 「黄泉還れ!!!朱叉ノ王よ!!!!」

 剣は燃える屍の山の頂に突き刺さり、死肉の塊と同化する。

 黒い炎と屍は混ざり合い激しい肉のうねりとなり暴れ出す。まるで大蛇がのたくる様に。

 肉の塊が人の形を創り定着すると、幼い裸身の少女が誕生した。

 炎のような紅い髪で二本の角がある。

 月夜見は少女を抱き上げ愛しそうに髪を撫でる。

 「・・・そなたは朱き焔の化身。新たなる種『妖魔』の王。天をも焼き尽くす羅刹なり。名は朱天童子、朱羅」

 朱羅と名付けられた少女が目を開ける。

 黒い闇が己を包む。その顔はどこかで見た何故か懐かしくも愛しさを感じるものだ。



 夢。

 これは夢。

 遥か彼方に見た夢現。

 闇にいざなわれ闇の寵愛のままに貪り尽くしたかつての世界。
 

 人との長き争い。
 
 妖魔。

 闇より創り出されし種。

 自我。

 出会う仲間。

 疑問。

 相反する意志。

 対立。

 






 「・・・そうか、そうだったな」

 少女に抱かれた朱羅が呟く。

 大きな金の瞳に涙を浮かべ見つめる金髪褐色の少女。

 「・・・またイジメられたのか?黄猿。誰にやられた?俺様がブチ殺してやるぜ」

 幼かったあの頃の少女をいつもの様に頭を撫でてやる。


 「借りを返してやるぜ。月夜見、いや、夜魔堕大蛇」