複雑・ファジー小説

Re: 朱は天を染めて ( No.60 )
日時: 2014/03/23 02:10
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: zlsHcGtF)

 第五十六話 傍にいて


 金時は己の腕に抱く者をじっと見つめた。

 思わず無茶な行動してしまった。

 だが確信した。この者を知っていると。顔も姿も。この温もりと匂いも。失われていた欠片が再び、ひとつとなる。

 朱天童子、朱羅。かつて四天王として自らが仕えていた主。『蛇』との戦いで傷つき記憶と力を失い、彷徨っていた事。そして今に至る事。

 涙が溢れる。求めていたものがここにあったのだ。

 

 朱羅は薄く眼を開け、金時、いや、かつての友、黄猿を見つめ頭を撫でる。ずっと昔にそうしていたように、優しく、力強く。

 「・・・泣くな黄猿。誰にやられた?俺様がそいつをブチ殺してやるぜ」

 「・・・しゅ、朱羅様〜!あ、あいだがっだ〜〜〜!!!!」

 涙と鼻水でグシュグシュと泣く黄猿。

 「御社の騒ぎの時、どこかで見たことある奴が人間と一緒にいるから、もしやと思ったんだぜ」

 ゆっくり身体を降ろす朱羅。コキコキと首を鳴らす。

 「あ〜、だりぃ。寝過ぎたぜ。ん?何やってんだ、瑠華?」

 しゃがんで震えてる瑠華に声をかける。

 「んん!?朱天童子!?目が覚めたのか!!って、なんで人間なんかといるんだ!!」

 「馬鹿野郎、コイツは妖魔。俺様の仲間だ。少しばかり縮んじまったがな」

 そう言って鼻をすする黄猿の頭を撫でる。
 
 「おまえがこうして無事なら他の四天王の奴等もしぶとく生きてるだろうな」








 倒れている貞光と人型に戻った千璃。バラバラに砕けた槍。よろよろと身体を起こす千璃。

 「くっ・・・!この槍、天之瓊矛アマノヌボコやったとわ!!!」

 「・・・へへっ、あたいが昔、愛した人から譲り受けた神槍だ・・・」

 貞光は槍が己を守ってくれたのを感じつつ、意識を手放した。

 千璃は身体を押さえながら朱羅の元に行こうと歩く。

 「ううっ、あちきとした事が・・・!ち、力が入らへん・・・」

 その場に倒れ込む千璃、だがその身体を支える人影。

 「派手にやられたな、千璃」

 「朱天はん・・・!!」

 にやりと笑う朱羅。

 「ずっと見守ってくれてたんだな、あの時からずっと・・・」

 そっと抱きしめる。いつも一緒に遊んでくれた白銀の子狐。

 「・・・大蛇おろちに意識を完全に喰われなかったのは、お前が一緒にいてくれたからだぜ・・・」

 闇の儀式により妖魔として誕生させられる瞬間、自らも飛び込み触媒となって朱羅に融合した子狐。それは純粋な闇にとって異物となり、心の中で燻ぶり続けた。完全な闇の魔物になる事を防いだ。
 
 そして気が遠くなる長い時を、共に歩んできていたのだ。

 「・・・思い出してくれはりましたか?朱叉ノ王はん・・・」

 「ああ、全部な。天照姉様の事も、月夜見のことも、夜魔堕大蛇の正体も」

 そう言って朱羅は微笑む。それに頬が紅くなる千璃は誤魔化すように
後ろに控える困惑する瑠華を無視し金時、黄猿に視線を向けて言う。

 「・・・やっぱり妖魔やったんか。だから妙な気配を感じたんどすな。人間の匂いが染みついていて、判らんかったわ」

 「こいつも蛇にやられてから、色々あったみたいだぜ」

 朱羅はそう言って一通り辺りを見まわし巨木の巨人の下方を見る。

 「それにこの嫌な感じ、どうやら蛇の手下が暴れて・・・」


 その瞬間、凄まじい勢いで何者かが姿を現し朱羅に斬りかかった。