複雑・ファジー小説

Re: 朱は天を染めて ( No.61 )
日時: 2014/03/24 01:20
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: jwT.QVpL)

 第五十七話 嘆きと悲しみと


 朱羅に迫った刃を戦斧で受け止めた黄猿。

 太刀を斧に重ねながら金時だった者を睨む頼光。

 「・・・まさか、妖魔だったなんて・・・ひどいよ、金時・・・」

 「・・・ごめんよ、頼光。オイラ、皆を騙してたな・・・」

 苦い表情をする黄猿。

 刃と刃が激しく打ち鳴らされ、双方後ろに下がり、武器を構える。

 「・・・そこをどきなよ、金時。君は殺したくないんだ」

 頼光は蜘蛛切丸の刃を滑らすようにを掌に添え、姿勢を低く鋭く構える。

 「オイラだって、お前を殺したくない。頼光・・・」

 足に少しずつ重心をかけ、戦斧を背中に担ぐように構える黄猿。

 睨み合う二人。

 お互いに踏み込もうとした瞬間。

 『鬼神黒雷斬手刀きしんこくらいざんしゅとう

 上空から黒い影が飛来し、拳を打ち下ろした。

 黒い稲妻が轟き、闇の閃光が放たれる。

 巨木の巨人は頭から黒い雷に撃たれ、無残に両断された。
 
 轟音と地響きを上げながら、木端微塵に引き裂かれ倒れる巨人。

 粉砕された木片が降るその中心に黒い魔人が宙に佇み、こちらを見ている。

 「あ、あたしの大木人鬼が・・・!」

 瑠華と金時が朱羅の小脇に抱えられて緩やかに落下する。その背中に千璃も負ぶさっている。

 「朱羅はん!あいつ、両面宿儺や!!大昔、人間に封印された鬼神や!!」

 「ああ、判ってる。大方、大蛇おろちが復活させたんだろうよ」

 向かい側に同じく落下する頼光。落ちてくる貞光を受け止めようとしたその時、

 両面宿儺が背後に現れ、頼光の胸を大きく貫いた。






 

 

 幽魔、そして綱と卜部は巨人が倒れてくるの驚愕して見ていた。

 「ちっ!菜っ葉娘め、余計な手間を掛けさせ負って!」

 幽魔は印を組み、水の膜を作り出し綱と卜部を守る様に包み込んだ。

 降り注ぐ大木の雨を防ぐ水の膜の中で綱は胸を貫かれ、落下する頼光を見た。

 「!!!! 頼光様!!??」











 大量の樹木の残骸が埋め尽くした大地の上空、黒い鬼神はゆっくりと宙を漂う。その手には脈動する血濡れの肉塊が握られている。


 朱羅は忌々しげに空を睨む。足元に鮮血に染まった頼光と隣に貞光が草の布団の上で寝かされている。

 「頼光!!しっかりしろ!!死ぬな!!!」

 黄猿が涙を流している。瑠華が何とか出血を止めようとし、千璃が傷を見て首を振る。

 「・・・これは、あきませんわ。普通の傷ではあらへん。まだ生きてるのが不思議なくらいや」

 そこに綱を抱えた幽魔と卜部が駆け付けた。

 「!!! 頼光様!?な、なんて事だ・・・!!!」

 「ら、頼光様!?そんな・・・!!!」

  綱が顔面蒼白になり、卜部が嘆く。

 幽魔は宙に浮かぶ鬼神を一別し瀕死の頼光の抉れた胸元を見てから朱羅に言う。

 「朱羅、もしや、こやつ・・・」

 「ああ、おそらく、『神器』持ちだったんだろう。俺と同じな」

 そして朱羅は少し考えてから口を開く。


 「俺様ならこの人間、助けられるぜ」