複雑・ファジー小説

Re: 朱は天を染めて ( No.63 )
日時: 2014/03/24 12:59
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: 5BfKe2TC)

 第五十九話 おおいなる力・中編


 宙に浮かぶ両面宿儺はゆっくりと地面に降り立つ。

 手に持つ血肉の塊を一別すると黒い煙がシュウシュウと上がり肉を溶かす。

 溶け去った肉の中から翡翠色に輝く勾玉が現れた。

 それを朱羅たちに見せつける様にかかげる。

 「やっぱりな、そいつは三種の神器『八尺瓊勾玉』か」

 宿儺は無表情で頷くと朱羅に言う。

 『ソウダ、朱天童子。力ガ弱マリ、アマツサエ『天叢雲剣』ヲ手放シタ貴様ニ勝目ハ、ナイ。大人シク私ニ従エ』

 だがそれを聞いても朱羅はふてぶてしく鼻で笑う。

 「あいにくだが、俺様は往生際が悪いんだぜ。それに、てめえ如きの奴に命令されたくねえぜ」

 朱羅の台詞に僅かばかり、黒色の双眼が細まる宿儺。

 『・・・ソウカ、ナラバ、ソノ四肢ヲ千切リ連レテ行クマデ・・・』

 ドス黒い殺気が湧き上がる。

 朱羅の前に守る様に立ちはだかる瑠華と黄猿。

 「まかせろ、朱天童子。こんな奴、あたしの伝説の前では何の障害にもならないのだ!」

 「ここはオイラが通さない。四天王の意地を見せてやる!」

 朱羅は二人に頷き目を閉じ、静かに呟きながら印を組む。

 「・・・悪いな、二人とも。少し時間を稼いでくれ」

 そして呪文を唱え始め、己の内なる力を高める。

 「・・・天地箔洛・・・流転界現・・・神魔混業・・・」
 
 宿儺はおもむろに、一歩その足を近づける。

 瞬間、瑠華と黄猿が跳躍し、宿儺に先手を仕掛ける。

 「させるか!喰らえ!!樹坤魔破拳じゅこんまっはけん!!!」

 拳を樹木化させ叩き込む瑠華。

 「朱羅様に指一本、触れさせない!脳天勝割り落とし(のうてんかちわりおとし)!!!」

 振り上げた戦斧で叩き斬る黄猿。

 鈍い打撃音と衝撃の波が辺りを覆い、突風を巻き起こす。
 

 だが宿儺はそれらを左右の拳で受け止めていた。

 大地に亀裂に走り、宿儺の足元が沈む。二人の攻撃はかなりの威力があった筈だが、宿儺は何も表情を変えない。

 『鬼神黒雷大兇殺きしんこくらいだいきょうさつ

 宿儺の腕から凄まじい黒い雷の閃光が放たれ、幾重にも瑠華と黄猿の身体を走り抜けた。

 「があああああああああっ!!!???」

 「ぎゃあああああああああっ!!!???」

 衝撃で吹き飛ぶ二人。辺りに肉の焦げる匂いが立ち込める。地面にたたきつけられ、倒れた瑠華と黄猿の身体から黒煙を上がり、数度痙攣していたが、動かなくなった。

 「!!!! 瑠華!?黄猿!?」

 朱羅が動こうとした背後から勢いよく二対の影が飛び出し、宿儺に攻撃を仕掛ける。

 「水鋼弾・五月雨撃ち(すいこうだん・さみだれうち)!!!!」

 印を組んだ幽魔から無数の水弾が放たれ、宿儺を襲う。 

 「凶爪・風裂連殺刃まがつめ・ふうれつれんさつじん!!!!」

 千璃の鋭い爪から風の刃が渦巻き現れ、巨大な竜巻となり宿儺を呑み込もうと迫る。

 迫る水と風の攻撃の前に宿儺は黒い両目を閉じる。

 すると額の鮮血の様な赤い瞳が大きく見開く。

 『鬼神滅光呪殺閃きしんめっこうじゅさつせん

 額の紅眼から赤黒い閃光がほとばしり、水弾と竜巻を一瞬で掻き消した。
 
 「「!!!!」」

 驚愕した一瞬の間に、幽魔と千璃の胸を赤黒い閃光が貫く。

 「ぐはぁっ!!!???」

 「あぐぅっ!!!???」

 吹き飛び大地に叩きつけられる二人。穿たれた胸からは黒い蒸気が立ち昇りピクリとも動かない。

 「!!!! 幽魔!?千璃!?てめえ!!調子に乗りやがって・・・!!!」

 朱羅は焦りながらも印を組んだまま動けない。

 宿儺が朱羅に歩みを近づけ、黒い波動を纏わせた手を翳す。

 その時、

 「おっと、俺の女に手をだすんじゃねえよ」

 宿儺の背後から男の声が聞こえた。

 振り返ろうとした宿儺に蒼い雷を纏った拳が直撃する。

 「紫電竜光雷撃拳しでんりゅうこうらいげきけん!!!!」

 蒼い雷の奔流が宿儺を打ち上げ、空の彼方に吹き飛ばした。

 「・・・ふうっ、女を殴るのは心が痛むぜ・・・」

 蒼い髪の男がキザったらしく髪を掻き上げて、白い歯をキラリと輝かせて苦笑いをした。