複雑・ファジー小説
- Re: 朱は天を染めて ( No.64 )
- 日時: 2014/03/24 16:05
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: d9r3SuxE)
第六十話 おおいなる力・後編
朱羅は男を見て、口元を吊り上げ言う。
「俺様がいつ、お前の女になった?来るのが遅いぜ、竜星」
蒼い髪の男、朱天童子四天王、竜星は手をあげて、かぶりをふる。
「おいおい、これでも急いできたんだぜ?山の上のデカい妖気に気付いてここまで飛びっぱなしだ。労ってくれてもいいだろう?」
そう言って顎をしゃくり、後ろに指し示す。
倒れた瑠華と黄猿に治療をしている黒い長髪に赤いメッシュがある美女が此方を見る。腕には鳥の翼が生えている。
「・・・朱羅様、お久しぶりで御座います・・・!!」
「ああ、燕黒、良く来てくれたぜ」
隣で巨体の男が幽魔と千璃の治療をしている。虎縞の短髪で精悍な男が朱羅を見る。
「・・・姉御!こっちは大丈夫だ!!問題ない!!」
「すまねえ虎熊、皆を頼むぜ」
彼等は朱天童子四天王。かつて朱羅に仕えていた妖魔。夜魔堕大蛇との戦いで傷ついた身体を癒しながら大和の国を渡り歩き朱羅を探していた。そして大江山の異変に気が付き駆け付けたのだ。
彼等によって幽魔たちと頼光たちは離れた場所に移された。
突然、空中から黒い稲妻が連続で幾つも放たれ、朱羅たちを襲う。
竜星は朱羅を庇いながら、黒雷を蒼雷で撃ち落す。
「ヒュー!なかなかキテる女だな!!」
上空に宿儺が黒雷を纏い浮かんでいる。次の黒雷を放とうと手をかざすが、空を切り、無数の羽が降り注ぎ身体に突き刺さる。
「あなたの相手は私です。朱羅様に楯突く輩は許しません」
飛翔する燕黒が優雅にその羽を広げ、振りかざす。
「緋翼空翔羽針!!!!」
燕黒が美しい翼を舞う様に煽ると無数の羽が螺旋を描き幾重にも宿儺に突き刺さっていく。
宿儺は羽に穿たれながら燕黒に雷を放とうとするが、唐突に身体に刺さった羽が発光する。
「鳥妖励起爆羽!!!!」
無数の羽が誘爆し、空中で大爆発が起こる。
爆煙が立ち込める中から宿儺が飛び出し燕黒に襲い掛かる。
「させるか!!!ボケが!!!鈍重万漢巨来石!!!!」
上空から巨大な岩石を抱えた虎熊が飛来し宿儺を直撃し、そのまま大地に激突し押し潰す。
「おまけだ!!鎚漢怒撥天!!!!」
轟音と地響きを立ててさらに召喚された巨大岩石が大地にめり込み、噴煙を上げる。
「おおお!?こいつ、化け物か!!?」
上に乗ったままの虎熊ごと巨石を抱え上げて立ち上がる宿儺。
そこに竜星が蒼雷を帯びて飛び込む。
「どけ!虎熊!!俺は割としつこい女は嫌いじゃねえよっっと!!!電光迅雷・龍極七星拳!!!!」
七つの蒼雷が龍を描き、宿儺を穿つ。雷撃のスパークが巨石を打ち砕き、もろともに粉砕する。蒼い龍が咆哮し、光が周囲を呑み込む。
辺りは煙が昇り、瓦礫の山が築かれている。
蒼雷を身体にバチバチと走らせる竜星が険しい顔で積み上がる瓦礫を見る。燕黒と虎熊も後方で油断なく見ている。
瓦礫の山が僅かに動き、揺れ出す。地震の様に大地が揺れ、瓦礫の山を爆散させて黒い影が姿を現す。
噴煙の中から両面宿儺がゆるりと姿を現す。
その身体は腕は吹き飛び、身体に穴が幾つも開き、足が片方消えていた。
かなり攻撃は効いている様だが、まるで苦痛を感じている様子は無い。それどころか追い込まれている筈なのに底が知れない不気味さを醸し出している。
「・・・どんだけ、根性ある女だよ・・・」
竜星が呆れたように拳を構えて言う。後ろの二人も構える。
宿儺は竜星たちを一別し残った片手に持った八尺瓊勾玉をかかげ、自分の胸に抉りこんだ。
「「「!!!!」」」
宿儺は大きく眼を見開き、突然もがき苦しみ出す。
『ウガアアアアアアアアアアアアッ!!!!!』
そして糸が切れた人形の様にガクリと後方に背中が曲がる。背を歪にうな垂れたまま動かないが、その身体は徐々に宙に浮きユラユラと上空に昇る。
黒い光が揺らめき宿儺を包み、球体を形成する。
「おい、朱天!まだか!!こっちはヤバイ事になってるぞ!!!」
竜星が叫ぶ。
朱羅は静かに印を組んでいた手を放し不敵な微笑みをたたえ、言った。
「またせたな。こっちも準備が整ったぜ」