複雑・ファジー小説

Re: 朱は天を染めて ( No.7 )
日時: 2014/03/02 01:42
名前: Frill (ID: J7xzQP5I)

 第五話 英雄少女はお年頃



 貴族院、厳かな雰囲気の謁見の間で女性が二人静かにかしずいている。

 「面を上げよ、頼光らいこう殿、つな殿」

 頼光と呼ばれた少女が顔を上げる。少年の凛々しさと純真さを合わせ持った様な輝くばかりの美少女だ。
 
 綱と呼ばれた隣の女性も顔を上げる。右目に眼帯を施した隻眼の美女だ。鋭い眼つきがその芯の強さを現している。

 顔を上げた二人に大臣が言葉を続ける。

 「そなた達には大江山に棲む鬼『朱天童子』を討伐してもらいたい。そなた達二人は以前に羅生門の鬼を退治した功績がある。ゆえにこの件を任せたいのだ」

 鬼退治と聞き瞳を輝かす少女。隣の女性は変化は無い。二人は深々と頭を下げる。

 「その拝命、しかと承りました。この源頼光、必ずや鬼を討ち取りましょう」

 返事を聞いた大臣は大きく頷く。

 「うむ、都を脅かす脅威は全て滅ぼさねばならん。しかと頼むぞ。鬼について詳しいことは陰陽師達に聞くがよい」

 二人は礼をとり部屋を退出した。








 「うう〜ん、やっぱり堅苦しいのは苦手だな〜」

 少女、源頼光は大きく息を吐き背筋を伸ばした。

 「頼光様、はしたないですよ。まだ殿中です」

 隻眼の美人武士、渡辺綱は自分の主をたしなめる。

 「鬼退治か〜、前に追っ払った羅生門の鬼より強いのかな。その大江山に棲んでいるっていう『朱天童子』って」

 鬼に興味津々の少女が家来の女武士に聞く。

 「たしか百の兵士も片手で薙ぎ払う恐ろしい大鬼との噂があります。ですが、実際に生きて帰った者はいないので正体は判りません」
 
 鬼の凶悪な姿のイメージを想像したのか、楽しそうに笑う頼光。

 「それだけ強いなら僕が本気を出しても全然大丈夫だよね♪」

 くるくると回る楽しそうな少女。

 それを見つめる隻眼の女武士。

 
 
 純粋すぎる無邪気な少女をいつまでも優しく見守る綱であった。