複雑・ファジー小説

Re: 朱は天を染めて 【第二部開始】 ( No.70 )
日時: 2014/05/14 15:39
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: 76WtbC5A)

 第四話 旅は道連れ、世は行き当たりばったり


 朱羅と黄猿、旅芸人風の格好のふたり。

 お互い仲睦まじい姿は美人姉妹のようにも視えて、何とも微笑ましい。

 暫らく歩いて休憩がてら、近くの茶店で腰を下ろした。

 お茶と団子に舌鼓を打っていると、客の間で妙な噂話を聞いたのだ。

 曰く、鯖街道の峠では『神隠し』が多発すると、それも若い娘ばかり。

 それは峠に住む天狗様の仕業ではないか、というものだった。

 「・・・天狗か、ここら辺には住んでいなかったと思ったぜ、昔は」

 朱羅が焼き饅頭を頬張る。

 「オイラも最近の妖魔事情はわからないけど、新しく縄張りを持ったやつかな?」

 味噌団子を食べる黄猿。

 ここ琵琶湖の鯖街道の峠を越えた先に目的地の比叡山はある。

 途中別れた幽魔たちも別ルートで向かっている筈だ。

 ここまで来る道すがら、人相の悪い人間の盗賊、雑魚妖魔を人知れず始末してきたふたり。

 仮にその噂の天狗が襲ってきたとしても十分返り討つ自信がふたりにはあった。

 ————この時までは。

















 一方クジ引きでペアを決め、朱羅と黄猿から別れた別働隊。

 鬱葱としげる林の小道を幽魔と燕黒が歩いていた。

 「・・・嗚呼、今頃、黄猿と朱羅様はふたり仲良く茶屋で一服してらっしゃるのでしょうね・・・」

 げんなりした表情で燕黒が嘆く。

 「今更嘆いてもどうしようもなかろう。それよりもここから西に往けば、比叡山は目と鼻の先じゃ。気を引き締めておれ、もう既に敵の勢力圏内じゃからな・・・と、言うておるそばから・・・」

 林を掻き分け、複数の瞬影が迫る気配がした。

 すかさず、ふたりは戦闘態勢の構えを取った。






















 「はぁああああっ・・・。朱羅はんとふたり旅、したかったどす・・・」

 盛大に溜息を吐く千璃。

 「溜息吐きたいのは、あたしだよ。なんで、こんな腹黒狐と一緒なのだ・・・」

 瑠華が納得いかぬ顔で憤慨する。

 ふたりも別ルートから比叡山に潜入するべく、朽木渓谷を川沿いに進んでいた。

 「はぁああああっ・・・鬱憤晴らしに瑠華はんをいたぶって弄びまひょうか・・・」

 「おいいいいいいっ!! さりげなくあたしを玩具に使うつもりか!!!」

 ふたりがやんや漫才していると、上流から凄まじい殺気を放つ何者かが迫るのを感じた。

 「・・・この気配は・・・ちょうどいい暇つぶしになりそうやわ」

 ニヤリとする千璃。

 「ふん! あたしが玩具にされないように、生贄にしてやる!!」

 瑠華がファイティングスタイルでシャドーパンチをかます。

















 竜星と虎熊は目的地を目指し、どっかを進んでた。


 「・・・俺達の扱いって・・・」

 竜星が遠い目をする。

 「まあ、気にしてもしょうがないだろ?」

 虎熊が本当に気にせず言う。










 なんだかかんだで、それぞれ目的地である敵の本拠地、比叡山へと向かっていたが、そう上手くはいかない予感があった。