複雑・ファジー小説
- Re: 黎明の天使-リアンハイト- ( No.1 )
- 日時: 2014/03/02 10:52
- 名前: 恒星風 (ID: gOBbXtG8)
どのくらいの時が経っただろうか。
再び意識がはっきりしてくるのを感じ、彼は眠い目を擦って軋む体を無理矢理に起こした。
はっきりしかけた意識はまだ一部が朦朧としているが、彼は周囲の物色を始める。
「———起きた、のか?」
自分に問いかける言葉としては些か不適切だが、彼の口から出た言葉はそれだった。
そして言葉を発したことで、意識にかかっていた靄は確実にはっきりとした。寝起きの良さは相変わらずらしい。
(———あれ?)
そして意識が完全にはっきりしたところで、彼はいくつかの疑問を抱いた。
自分が今いるここは何処だ。まずその疑問が浮かんだ。
彼が今いるこの場所は、小さな部屋の豪華な寝台の上だった。
開け放たれた窓からは幻想的な光が差し込んでおり、その先の景色は雲の上の世界が広がっている。
空やその雲は茜色に染まっており、所々に浮遊する島のようなものもある。
宛らこれは天国ではないか。そう考えた彼だが、その考えも納得がいった。
自分は一度死んだのだ。だったら天国か地獄、どちらかにいてもおかしくはない。
あるいは、自分は死んでいなくてただ夢を見ているだけか。
他にも様々な考えが彼の脳裏を過ぎったが、そんなことを考えていては限がないので頭の片隅に追いやることに。
そう、自分はあの時脱力感に襲われて死んだのだ。だからここは天国に違いない。
彼は身体を起こしてからそんなことを考えていたが、考えることに一度限を付けたとき、背中に妙な感覚を覚えた。
「?」
背中にある何かが動く。いや、正確に言えば自分の意思で動かすことが出来る。
一体背中に何があるのだろうか。無性に知りたくなった彼だが、動くにはまだ辛いのでそれは叶わなかった。
因みに部屋の扉付近には姿見が置いてある。だが悲しいかな、それは更に隣のクローゼットのほうを向いている。
彼の居場所は死角になっていて、ここからでは丁度姿が見えない。
「はぁ……」
そして次いで浮かんできた疑問。自分は誰だということを考え始めたときだ。
「——!」
突如、扉をノックする音が響いた。
それにより、彼の自分が誰なのかという事に関しての思考は見事に一刀両断される。
そして一瞬返事をしようかと迷った彼だが、その前に扉は開かれた。
無言で入ってきたのは、とても美しい女性だった。宛ら女神ではないかと思えるほどに。
彼女は流れるような金の長髪を、部屋に入ってくる風に遊ばせている。
そして入ってくるなり、彼の存在に気付いてその蒼穹の瞳を彼に向けた。
「あら、起きたの?」