複雑・ファジー小説
- Re: 黎明の天使-リアンハイト- ( No.2 )
- 日時: 2014/03/02 14:20
- 名前: 恒星風 (ID: gOBbXtG8)
彼が目を覚ます数日前の事である。
彼女"ノルン"は早朝早々、ゆっくりする暇もなく広場へきていた。
因みにこの"天界"と呼ばれる天国と言ってもいい世界は、いくつもの浮遊島が雲の上に浮かんで形成されている。
その島に一つはある、各島々を繋ぐワープシステムで、ノルンは早足に広場へ来れている。
そして早朝から何事かと言えば、彼女の眠りを妨げてまで戦神オーディンが報せをしてきたからだ。
曰く、第三の島の広場で所属不明の天使が倒れている、である。それを聞いたノルンは、天使たちを統括するという仕事柄、放っておくわけにはいかないのでこうして騒ぎの中に紛れ込んでいた。
倒れていた天使は一見そこらの天使と変わりないのだが、所属不明という以上、何か曰くつきであると考えるのが普通。
故にノルンはマスコミが騒ぎ始める前に、その天使を保護し、自分の家の一部屋に寝かせておくことにした。
魔法と似て非なる"奇蹟"によって生命力を維持させ、目が覚めるまで養うことにしたという。
◇ ◇ ◇
「つまり、天使ですか。僕は」
「そうよ」
そんな話をノルンから聞かされた彼は、肯定はしてもイマイチ事情が飲み込めずにいた。
とりあえずこの世界が先ほどまで自分がいたはずの世界ではないことは理解できたが、何故天使なのか。
次々と疑問が彼の脳裏を過ぎり始めるが、どっち道信じる信じない以前にこれは紛れもない現実なのだ。
今の状況におかれた以上、とにかく次々と浮かんでくる疑問は頭の片隅に追いやらねばならない。
「そうだわ、貴方の名前を聞かせてもらえるかしら?」
「あ、え、えっと……」
彼は自分の名前を口にしようとした。
だがそれは拒まれた。頭では理解しているのに身体が否定している。
喉まで出かかっている、かつての自分の名前。それはどうしても口に出来ない。
やがてノルンが首を傾げ始めた頃、彼はようやく自分の名前を口にすることが出来た。
「リアン……リアンハイト……です」
だがようやく言葉に出来た名前は、頭では違うと言っている。
自分はこんなにも長い名前であったか。また疑問が浮かんできたが、やはりそれも頭の片隅に追いやることにした。
ここで違うといって言い直そうとしても結果は見えている。先ほどのように靄がかかり、身体が否定するだけだ。
「リアンハイト、ね」
ノルンはそんなことを彼が考えているとも知らず、その名をメモ用紙に書き記した。
ちらっと見えたその紙面には、彼——リアンハイトが知らない文字が綴られている。
正確に言えば、理解も出来るし書くこともできる言語ではあるが、自分が今まで使っていたそれとは違っている。
「確か、古代言語で"黎明"って意味だったわね」
黎明——それは夜明けや明け方の事であり、転じて新しい時代や文化の始まろうとする時期の考え。
辞書的な意味で言うならば——リアンハイトの生前(?)の意味でだが——そういう事となる。
新しく口にしたこの名前に、自分が転生した切欠と何か関係があるのだろうか。
だが今になってみれば、考えることが段々と馬鹿らしくなってきているので、やはり頭の片隅に追いやった。
やがてノルンと名乗るその美しい女性は、寝台付近の椅子に腰掛けた。
「ちょっと、私の質問に答えてもらえる?」
「あー、はい。構いませんが……」