複雑・ファジー小説

Re: シークレットガーデン〜小さな箱庭〜 ( No.5 )
日時: 2014/03/06 14:37
名前: 姫凛 (ID: 7hzPD9qX)

序章 出会いと別れ










「はぁ…はぁ…」
薄気味悪い夜の闇が支配した茨の森を白銀色の髪の少女が息を切らしながら走り抜けている。
「グルル……」
「追えー追えー!」
「ガルル……」
人ならざる存在を操る数名の魔物使い達が少女の後を追う。
少女は人を拒む茨によって手足の皮膚を切りながらも何処かへ向かって走り抜ける。
「あれだけは決して外部に漏れてはならない…」
と魔物使い達の一人の男が小さく独り言を言った。
少女の腕の中には大切そうに、“あるもの”が抱きかかえられていた。
襲いくる魔物達の攻撃を回避しこねても絶対にその“あるもの”だけは傷つけないようにしている。
「(あともう少しだからね……まってて…お父さん…)」
“あるもの”を見つめながら少女は強く思った。



それから時はさかのぼる--
女神歴:625年 食料不足問題時代


「けほっけほっ」
「ヨナ!?大丈夫?」
「うん……ちょっと咳が……でただけ…」
「そ、そう?でも無理しちゃ駄目だよ?」
「うん…」
食料不足問題時代。ここのところずっと天気が悪く農作物が思うように取れず餓死してしまう者が増えた時代。
そして謎の不治の病が流行り出し人ならざる存在が初めて誕生した時代でもある。
謎の流行病。何処からともなく飛んできて免疫力のない年寄や子供によく発病する。
罹ってしまったら最後。直す方法はどこにもない。ただ死を待つだけである。よってこの病は別名闇病と呼ばれている。
そしてこのヨナと呼ばれた齢八の少女またその不治の病に侵されているのである。
病弱な妹を救うべくまだ齢十八少年ルシアはたった一人で危険な場所を出入りし生計をたてている。
「じゃあ、行ってくるよ」
「ヨナも一緒にいっちゃ……だめ?」
「今日は狩りをする事になることになると思うから、やめておいたほうがいいな」
「……うん」
「帰りに、ヨナが好きそうな本を借りてきてあげるから」
「…うん。待ってる」
「じゃ、行ってくるよ」
ルシアはそう言い終わると笑顔で手を振り部屋を後にした。


それからほんの少し時が流れる。
ルシアは森でイノシシ狩りを終えヨナのいるわが家へ帰ろうとしたところから再開する。

「ふぅ、今日は結構狩れたな。これだけあれば、ヨナの好きなメロンが買えるかな」
イノシシの死体を眺めながらルシアは言った。ヨナが喜ぶのはいいことだと思う反面なんの罪もないイノシシが死ぬのはかわいそうだと思うルシアであった。
日が沈むまであと数時間暗くなる前に帰るためイノシシを抱え帰り道を最中にそれは起こった。
「え?あれはヨナ?」
一瞬幻覚を見たかのようなおぼろげにパジャマ姿のままのフラフラと歩きながら何処かへ向かっているようなヨナの姿であった。
「ヨナ、ヨナ!どうしてここに…あぶないから一緒に帰ろう」
と声をかけたがヨナは全く見向きもぜずとゆうより聞こえていないようだった。
そして奴は突然現れた。
「グワァァァ」
「グパァァ」
ルシアの人生で一度も見たことのない人ならざる化け物が空に突如現れた魔方陣の様な物からあふれ出てきてヨナに向かって歩み寄ってきた。
「なんだあれ!?ヨナ—」
「……え?」
やっと通じたのかヨナはルシアの存在に気づいたが時すでに遅し、化け物達がヨナのすぐそこにまで来ていた。
「逃げろヨナーーーーー」
ヨナは恐怖から足がすくみ動けなくなっていた。誰もがダメだと思ったその時、化け物達が現れた同じ魔方陣から

「ちょ〜〜〜〜と、待ちあがれ〜〜〜クソ野郎どもーーー!!」
「へ?」
ルシアとヨナと同じ銀白色の髪で赤いポンチョを羽織った少女がまるで泳いでるようなポーズで暴言を言いながら舞い降りて来て着地すると同時に、
「ていやーーー!」
「グアァァ」
背に背負っている大剣を抜きバッサバッサと容赦なく化け物達を切っていった。
「ふぅ〜〜〜楽勝、楽勝」
魔物達を切り終えた少女に近づきルシアは質問してみた。
「……あの君は?」
「ほえ?ああ、あたし?あたしは〜〜ランファだよ!貴方は?」
「僕はルシア。妹を助けてくれてありがとう。」
とルシアは丁寧に御礼を言ったつもりだったが何故かランファは、
「えぇぇぇぇぇ!?貴方がルシア!?」
「そ、そうだけど…」
目玉が飛び出そうなくらいに驚き絶句していた。ルシアは何が何だかよくわからずポカンと口を開けていた。

Re: シークレットガーデン〜小さな箱庭〜 ( No.6 )
日時: 2014/04/09 16:00
名前: 姫凛 (ID: zEDABVSv)



「えぇぇぇぇぇ!?貴方がルシア!?」
「そ、そうだけど…」
目玉が飛び出そうなくらいに驚き絶句していた。ルシアは何が何だかよくわからずポカンと口を開けていた。
「ふ〜ん……」
大きな声で驚いた後、ランファはジ〜〜とルシアの事を嘗め回すかのように真剣な表情でじっくり見まわし始めた。
「な……なに?」
ひきつった表情でルシアはランファに尋ねるが聞こえていないのか真剣な顔で、ボソボソと独り言のような心の声が出ていた。
「(ふ〜ん……若いころは草食男子って奴だったんだぁ〜へぇ〜)」
「……?」
草食男子の意味が解らずポケ〜とした顔をするルシアを見てランファはふと我に返り、慌てて
「あっっっ、いやっっ、なんでもないっ!なんでもないのですよ〜〜〜とっと」
ルシアから離れクルリと後ろを向きそっぽを向いて口笛を吹きながらいった。少々頬が赤く染まっていたが鈍感なルシアはそれに気づかず普通に、
「そ、そう?まぁ、君がいいならいいや。」
受け流し
「ヨナ。ヨナからもランファにお礼を……ヨナ?」
ヨナの名を呼びかけたがどこを見渡しても先ほどまでルシアのそばでブルブル震えていたヨナの姿はなかった。
もう一度ヨナの名を呼ぼおとしたその時だったほんの少しばかり緊張感が崩れたこの空間が、脆くも壊れだしまた張りつめた生と死の世界に逆戻りする。


「キャーーーーーーー!!!」
「「っ!?」」
何処からかヨナの悲鳴が聞こえてきたのだ。
「ヨナーーーー!?」
先ほどよりも念入りに悲鳴が聞こえてくる方向を聞き逃さ無いように懸命に耳を澄ませヨナを探す。
すると森の暗闇に溶け込み陰になっている道で、必死にもがいて暴れているヨナとそれをビクともせずに肩に抱えている紅い鎧着た者が走り去っていた。
「はなして……はなして……!おにいちゃん……」
ヨナは紅い鎧を着た誘拐犯の背中を必死に拳で叩き足で腹を蹴っているが、所詮は齢八の少女の力。
しかも病弱でまともに栄養あるものを食べていないため力もない。
いくら叩いたり蹴ったりしようが誘拐犯にはなんらダメージがなく、痛くも痒くもない。
むしろヨナの少ない体力が奪われてゆくばかりだ。
「ヨナーーーーーーーヨナーーーーー!!」
妹の名を呼びながら、ルシアは必死に誘拐犯の後を追いかける。
「ヨナおば………ヨナちゃんーーーー!!」
ランファは何かを言いかけたが言い直し、ルシアと共にヨナを追いかけだんだん日が沈み暗くなってゆく森の中を走り向けて行った。


誘拐犯を追いかけていると森を抜けある広い空間へと出た。
そこは誰がなんのために建てたのかわからないが太古の昔からそこにあったとされる神殿。人々は石の神殿と呼び月日が流れ脆く崩れやくなっているため立ち入り禁止にしている場所だった。
「あれは……まさか…」
石の神殿を見た途端、ランファはなにか恐ろしい物を見るような顔をし、立ち止まって後ずさりし始めた。
そして先を走っていたルシアの腕をいきなり掴み、必死そうな表情で
「だめっっっ!!あの神殿に行っちゃだめ!」
石の神殿にルシアを立ち入れまいとする。
「は、はなしてランファ!僕は…僕は…ヨナを助けに行かないといけないんだ!!」
いくらランファが命の恩人だったとしても、世界にたった一人の大切なしかも病人の妹をここで見殺しにすることなど到底できるはずもない。
ルシアは大きく手を振りランファの足止めをかいくぐり神殿の中へと入ってしまった。
「だめ……だめなの…だめーーーーーー!!……貴方はあの神殿に行ったら……」
自分の必死の忠告を無視し神殿の中へと入って行くルシアの背中を見ながらランファはポロポロと大粒の涙を流しながら言った。


「ここが石の神殿……」
神殿の中は大量の苔が生えそこらじゅうが崩れ荒れ放題になっていた。
天井が高く最上階までは苔の生えた螺旋階段と崩れて窓になっている物しかない縦状の灯台の様な造りになっているようだった。
「ヨナは?ヨナはどこだ!?」
辺りを見渡して見るがあるのは苔と崩れた岩ばかり…耳を澄ましてみてもヨナの悲鳴もおろか足音すらも聞こえてこない。絶望的状況のその時、
「ん?これは…ヨナの押し花の………花びら?」
月の花と呼ばれる特別な場所で特別な条件が揃わないと咲かないといわれる貴重な花の花びらが、一定間隔で散らばっていたのだ。
ヨナがルシアに残した道しるべだとすくに気づき、
「ヨナ、今助けにいくからね。少しだけ待ってて…」
螺旋階段をタタタッと駆け上がって行く。
一気に最上階まで駆け上がると一つ扉があった。ルシアはなんの疑いもなく扉を開けるすると、
「侵入者発見!侵入者発見。発見。」
二体の巨大な顔に小さな手足の巨大なロボットが待ち構えていた。
その先に、祭壇に横たわるヨナとそのそばに立つ誘拐犯の姿があった。

Re: シークレットガーデン〜小さな箱庭〜 ( No.7 )
日時: 2014/04/09 16:17
名前: 姫凛 (ID: zKu0533M)




「侵入者発見!侵入者発見。発見。」
二体の巨大な顔に小さな手足の巨大なロボットが待ち構るその先に、祭壇に横たわるヨナとそのそばに立つ誘拐犯の姿があった。
「ヨナーーー!」
名を呼ぶがヨナは寝ているのかそれとも…まったく反応がない。
ルシアが入って来たことに気が付いた誘拐犯は、ゆっくり振り返りかえった。
「………」
誘拐犯は顔に厳つい般若の面をつけて敵意むき出しだ。奴の殺意のこもった見つめる視線だけで殺されそうになる。
奴は歴戦の戦士だ。ただそこに立っているだけで、ルシアは呼吸をする事さえ困難になる。
「ヨナを……ヨナを返せーーーー!!」
恐怖を押し切り腰にさした剣を抜き、誘拐犯の元へと駆け走る。誘拐犯は無言で腕を振りかざしそれが合図で二体のロボットがルシアに襲い掛かる。
一体は巨大な剣を持ちもう一体は巨大な矛を持っている。
巨大な剣を大降りに振りかざし、それを避けている隙を矛でつかさず刺す連携プレイ。
狩り程度しか戦闘経験のないルシアにとってはきつい戦いであり攻撃をかわしながらなおかつ敵に攻撃するのはなかなかできることではない。


「ぐはっ」
敵の矛が肺を貫いた、口から大量の血が吐きだし意識が朦朧とし始め足元がよたよたとなりおぼつかなくなった。
「(こんな……こんなところで死ぬのか?ヨナを助けられないまま…こんなところで僕は死ぬのか…?)」
ルシアの中でいろんな思いが走馬灯のように駆け巡る。
「(死んでたまるか!!………ヨナは、僕が、俺が助けるんだーーーー!!)」
死をも超えただひたすらに愚直に妹を救いたいと固く強く思い誓ったルシアの中に眠る獣が目を覚ました--。
「おぉぉぉぉぉ……!!!」
「……!?」
理性が吹っ飛び本物の化け物と化したルシアの姿を見た誘拐犯は驚き思わず後退る。
恐怖という感情のない二体のロボット達は、先ほどの連プレイでルシアに襲い掛かった。
だがもう今ルシアは先ほどまでのルシアではあらず。化け物と化した彼は歴戦の戦士の何十倍の戦闘力を発揮し、赤子のように遊ばれていたのを逆にロボット達を赤子のように扱いあっとゆうまに粉々に破壊した。


「……ヨナを返せ」
まだ声変わりのしてない高い声が特徴的だったルシアの声は低く低温の人の声とは思えないノイズまみれの声で静かに誘拐犯に言い放った。
「………」
誘拐犯は怖気づかず真っ直ぐにルシアを見つめかまえ巨大な魔法弾を創り出しはじめる。それを見たルシアも剣をかまえ、
「おぉぉぉぉぉ」
無謀にも巨大な魔方弾を創りだした誘拐犯に向かって剣一本で立ち向かい走り出した。…が
「だめーーーーーーーーーーーーー!!!!」
天井のない空から、神殿で別れたはずのランファが割り込んできてルシアと誘拐犯の間に降り立ち、ルシアの代わりに
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「ランファーーーーー」
魔方弾を受け止めたのだった。魔方弾の放つ光は部屋全体を包み込み直接弾には当たっていないがルシアも光に包まれあまりの眩しさに目をつむりなにも見えなくなった。


その隙に誘拐犯はヨナを抱えルシアに背を向け首だけ振り返り
「………我らの王のために」
とだけ言い残しシュッパンと何処か遠い場所へ瞬間移動した。
光が消えやっと見えるようになり我に返ったルシアが見たものは、ボロボロに崩れ去ったロボットとの残骸と自分を庇ったために瀕死の大けがを負い意識を失い横たわっているランファの姿だった。

もうこの部屋のどこにもヨナの姿はない-

もうこの世界のどこにもヨナは存在しない-

もう永遠にヨナは戻っては来ない……-

「そんなはずなんてない…。ヨナは絶対にどこかにいる。どこかに囚われて寂しがって泣いてるはずだ…。僕が…僕が…僕が助けに行かなくちゃ…。」
血をぼたっぼたっと垂らしならルシアは朦朧とした足取りでランファを抱え石の神殿を後にした。
数日後、誰かが神殿に入ったと知らせを聞いた管理局委員の者達が調査をするため遺跡に入ったところ、月の花の花びらでつくられた道しるべは無くなっていた。
ルシアが粉々に破壊したロボット達も消え、驚くべきことにルシアが大量に残した血痕がすべてきれいさっぱり無くなっていた。
いや正確にいうのであれば、最初からなにもなかった、ここではなにも誰も立ち入っておらずなにも起きなかった、壊れたままのそのままの状態であった。


誰かが偽装工作したのか?誰が?なんのために——?







序章 出会いと別れ 終